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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■入院顛末3・徒労
「連絡遅れたらそれはそれで文句言われるかもしれんけど、治療も済んで、もう大丈夫ですって状態でいたら心配かけずにすむんだよ。逆にそうしなかったせいで、お前が遊び呆けてオレをほったらかしにしてたってことが親父にバレたやんか」
「ほったらかしにしてたのは事実だから言い訳できんもん」
「オレはお前が『あてにできない人間』だって親父に思われたくないって言いたいの! 結局お前が馬鹿だから、劇団のみんなまで遊び仲間と思われて、巻き添えにしとるやないか」
「だからごめんって言いようやん!」
そう言ってしげは泣き出してしまったが、これもいつもと同じパターンである。全く、病院でまで泣くのかこの馬鹿は。気遣う立場の人間が逆に気遣われる行動を取っている時点で、いくら「ごめん」と言っても、反省したことにはならないことにいつまで経っても気付かないのだ。
「どうせオレちゃんとできんもん、あんたと一緒におらんほうがいいんやもん、もう劇団もやめる仕事もやめる病院ももう行かん」
これでしげはもう30歳である。小学生が駄々をこねているのと何の違いもない。このヒステリーも今まで何万遍聞かされたか分らないが、「恥を知れ」と言ってもまるで理解できないのである。これだけ明白に幼児退行を起こしているからこそ、精神科に連れて行きもしたのだ。もう通い始めて半年以上経っているのに、全然治る気配もない。精神科の先生、何やってるんだか。
「お前は結局、自分のことしか考えてないよ。この三日、おまえは結局一度もオレの具合がどうか尋ねなかったぞ? 自分に何かをしてもらいたがってるばかりで、オレのからだを気遣うつもりなんてないんだよ。いや、俺に対してだけじゃなくて、誰に対してもそんな態度取ってるんだよ。なんで人を思いやる気持ちが持てんか? なんで自分の頭で考えんのか? オレはおまえに『誰でも気がつく程度の判断力』を持てって言ってるだけなんだよ」
けれど、このセリフももう何万遍……。
そう、いくら説教したところで、一日経てば全て忘れる相手に何を言ったってムダなのである。馬鹿に対して馬鹿になるなと語ることの虚しさをもう10年以上も味わってきているのだが、年を取るにつれ、もう気力も体力も続かなくなってきた。本人に自己改善の意志も能力もない以上、私一人じゃもうあのイカレた頭をどうにも矯正のしようがないのである。
私がどうにも腑に落ちないのは、劇団の連中もかなり長いことしげと付き合っているというのに、このイカレ具合に振り回されもせず、なぜ平気でいられているのだろうか、ということだ。そこでつい「類友だから」という答えがパッと頭に浮かんでしまうのだが、もしそれが事実だとしたら、ソラオソロシイことである。ウチの劇団、みんなしげの群れか。
いつまでもしげを泣かしといたままでもしょうがないし、このままだとまた胃に穴が空くのは目に見えているので、「いいよ、もう、オレはどうせお前と心中するんだから」と言ってなだめる。ああもう、ドウエル教授でもフランケンシュタイン博士でもブンゼン博士でもいいから、しげのアタマ、もちっとマトモなのと取っかえてくれ。
しげ、少し風邪気味なようなので、明日早々に医者に行くように勧める。
つか、今しげがいる「ここ」がまさに「病院」なのだ。当然最初は「受付に行って、内科で見てもらえ」と言ったのだが、しげ、途端に「客が多くて待たされるからイヤ」、と言ったのである。そういう返事をすること自体、相手の気遣いを無視した行為になってるんであって、やっぱり何も判断してないし反省もしていないのだということを……もういいや、どうでも。どうせ明日になったら医者に行くこと自体、忘れてるだろうし、勝手に風邪でも尿毒症でも悪化させりゃいいのである。ウィルスに侵されたほうがかえって馬鹿がマトモに近くなるかもしれんかな。
結局、私はしげとの間で死ぬまで不毛な会話を続けていくことになるのだろう。まあ、そんなに長い時間はかからなくてすむかもしれないが(T∇T)。
09月07日(火)
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