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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■入院顛末2・ブラッククイーン?
朝、誰かに肩を押されて目を覚ますと、しげと、そして父がベッドの横に立っていた。一瞬、驚きはしたが、しげが父に連絡したのだな、と気付いた。夕べしげには「入院したことは親父にはまだ連絡はするな」と言っておいたのだが、ここんとこ私の言うことに逆らってばかりのしげは、この言いつけも無視していたのだった。しげに「今何時?」と聞くと、「7時45分」と答える。しげが朝起きて連絡したにしてもいやに早い。いやな予感が頭をよぎる。
「具合はどげんや」
父の問いに「昨日よりはいいよ」と言って、右手の点滴を見せる。
「夕べはいきなり12時に起こされて、一睡もできんやったぞ」
ああ、やっぱり。そうなると予測がついたから、知らせるなよと念を押しておいたのに、全くムダだった。その場でしげを怒鳴ることもできずに、また父になんと詫びればいいか分からずにただ口をへの字にしていると、父はさらに続けてこう言った。
「今日はだいたい博多座で北島三郎ショーがあったとばってん、親戚に譲って来た」
あちゃあ、そいつは大失敗。父の口調は別に恨みがましい感じではなかったし、それを口にしたからと言って腹蔵があるわけでないのは分かるのだが、なんだか取り返しのつかないことをしたと言うか、救急車なんて呼ぶんじゃなかったと後悔してしまった。もちろん、もっと後悔しなきゃならないヤツはほかにいるのだが。
しげに、今日からしばらく欠勤することを朝のうちに職場の方に伝えておいてくれと頼んでいたのだが、それもまだだった。しげに、病院の外に行って電話をかけてくるように頼んで、その間、父と語る。
「夕べの電話じゃ、しげさん、いっちょん要領を得んやったばってん、お前のそばにはおらんやったとや」
「……うん、まあ」
どうにも「遊び呆けてました」とは答えにくい。
「どこかで遊び呆けとったとやろ」
「……うん、まあ」
先に言われてしまっては、そうだと答えるしかない。
「さっき銀行に行って、入院費を卸しとる。しげさんに渡しとるけん、あとで“確実に”受け取っとけ」
「……わかった」
つまり、しげにお金を渡したままでいれば、使いこむから気をつけろ、と言っているのである。しげの名誉のために、そりゃいくらなんでもありえないよと否定してやりたいところだが、金に汚いしげの性格を考えれば絶対にないなんてことは言い切れない。いや、問題はしげが使いこむかどうかということではなく、「そういう人間だ」と父に認識されてしまった、ということの方が厄介なのだ。
私がしげに「親父には知らせるな」とキツクキツク厳命しておいたのは、父に心配をかけたくなかったからだけではない、こんなふうにしげが父から信用されなくなることを避けたかったからこそなのだ。それなのにボンクラ頭のしげは、自分からまた墓穴を掘ってしまったのである。ああ、もうほんとに椿三十郎じゃないが、「味方にケツを切られてる」気分である。
戻ってきたしげ、職場の上司に連絡がつかなかったと伝えてくる。一応、伝言は頼んでおいたとのことだったが、念のため、昼過ぎにでももう一度連絡を入れておいてくれと頼む。これくらいのことは忘れずにやってもらわないと、本気で困る。
父も、とりあえず今のところは私の様子見にちょっと来ただけなので、これからかかりつけの医者のところに行くと言って出て行く。
しげのほうは、父を車で送ったあと、父に何やら言われたらしく、紙袋に下着の着替えを入れて戻ってきた。けれど、やはり昨日から全然寝ていないと言って、すぐに帰って行った。紙袋の中を見るとホントに下着だけでタオルの1枚も入っていない。まだ私が「入院」しているのだという事実を認識しきれてないんじゃないか(--;)。
午前中はエコーだの胃カメラだの、検査続き。
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09月06日(月)
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