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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■回想の妻/『にっちもさっちも 人生は五十一から』(小林信彦)
 肉はできるだけしげに食べさせて、私は冷麺を注文。まず麺の腰がいい。スープはキムチを混ぜなければさほど辛くなく、ちょうどいい具合に細麺に絡む。チャーシューと一緒に平たく白い円盤みたいなのが乗ってるから、いったいなにかと思ったら、これがスライスした「梨」であった。これがまたよくスープに合って、爽涼感まで感じさせてくれる。これでは一枚乗ってるチャーシューが、スープの味の前にかえって邪魔なくらいだ。おかげで、いつもは残すスープも、今日はつい全部飲んでしまった。なんだかここまで満足できた食事と言うのも珍しい。
 時間が合えば映画も見ようかと思っていたが、特に見たいというほどのものがなかったのと、しげの腰の調子がまた少し悪くなって来たので、そのまま帰宅。でもまあ、充実した夜であった。
 実はどこの店に入るかでまたちょっと口ゲンカしてはいたのだが(^_^;)。


 帰宅した途端にしげはバタンキュー。
 チャットに入ったら、あやめさんがご来臨。奇しくもあやめさんも今日が誕生日であった。おめでとうございます。〜( ̄▽ ̄〜)(〜 ̄▽ ̄)〜
 って、ウチは4日遅れで誕生日してるんだけど(^_^;)。

 しげのことをあやめさんが「おねえたま」と呼んだので、なんか凄い違和感を覚える。人はやっぱり出会った時期からそうトシを取った感覚で見ることはできないもので、しげに最初に会ったとき、あいつはまだ、15歳だった。てことは、もうあいつの人生の半分近く、私は一緒にいるわけである。
 初対面のころのしげの印象は今でも鮮明に覚えている。当時、私のいた劇団にあいつが訪ねてきた。わざわざ自分からやってきたのだから、入団したいのかといろいろ声をかけてみた。ところがこいつがともかく喋らない。
 「芝居に興味があるの?」
 「……」
 「好きな役者さんとかいる?」
 「……」
 「最近見たドラマとかは?」
 「……」
 取りつくシマもないとはこのことである。ともかくいくら声をかけても返事一つしないで、ただ黙っているだけなのだ。
 普通ならここで「黙ってるだけなら帰れ」と追いかえすところだが、口は開かないが、目だけは私を真っ直ぐ見つめて全く逸らそうとしない。そして時折唇がモゴモゴと何か言いたそうに動く。
 もしかしてこれは、何か私に挑戦しているのか、と思った。芝居を一緒にしていくに足る人物かどうか、試されてるのかも、と大いなる勘違いをしたのである。ああ、勘違い(by『欽ドン』)。
 これは何としてでも口を割らそう(って何か悪いことしてたわけじゃあるまいし)と、ともかく芝居の話を延々とし出した。演劇論、演技論、なんかその場で簡単なマイムまで披露したような気がする。それでも反応はやっぱりない。やはりただこちらを凝視して口をモゴモゴさせているだけである。
 それでも懸命に私はずっと喋り続けた。1時間近く、一人で喋って、ついに私は負けた。
 「……ま、芝居が面白そうだと思うなら、また明日来なさい」
 で、次の日も、その日と同じ光景が演じられたのであった(-_-;)。

 あとで聞いたら、その日はしげ、「よく喋る人だなあ」と感心して聞いていただけなんだそうな。単に最初から喋る気がなかったんである。ドテっぱらに風穴空けてカツブシつっこんでネコけしかけてやろうか。

 なにしろその頃のイメージが強い。強すぎる。
 だもんで、普通ならあいつの成人式にまで付き合ってるというのに、私のしげへのイメージは、そのころで止まったままなのである。と言ってもさすがに15歳とは思えないので、18歳くらいで止まっているのだが。それでも若すぎるか。


 小林信彦『にっちもさっちも 人生は五十一から』(文藝春秋・1550円)。
 『週刊文春』好評連載のシリーズ最新版、2002年度の分である。改めて言うまでもないけど、小林さん、今年で71歳だから、タイトル見て勘違いしないように。
 読んでくと、書きたいことがたくさん出てくるんだがなあ。でもとても全部には触れられないからなあ。こうなったら毎週『週刊文春』買って、感想書いてこうかなあ。もったいないからしないけど。


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09月19日(金)
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