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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■そう言や久しぶりのカラオケだったな/『雑多なアルファベット』(エドワード・ゴーリー)
 今回随分版型が小さいなあと思ったら、原書と同じ体裁にしたからだそうな。ほぼ文庫版サイズで、絵本のコーナーに置いていたら、他の書に混じって見つからない可能性が大。ご購入の際にはお気をつけを。
 柴田氏の解説によれば、原タイトルの“The Eclectic Abecedarium”は「折衷的なアルファベット・ブック」という意味になるそうな。「エイビーシーデアリアム」とはラテン語起源の語で、あまり使われることのない物々しい響きのする言葉だとか。ムリヤリ日本語で雰囲気を出そうとしたら「寄せ集めのイロハ読本」てな感じになるのだろうか。日本でも種種雑多な「いろはがるた」があるから、あちらでのそういうお遊びものだと思って頂いて、基本認識は間違ってはいまい。もちろん作者が「あの」ゴーリーなだけに、一筋縄ではいかない。なんか意味ありげな、皮肉っぽいような短詩(?)もあるし、単にナンセンスなだけのもあって、種々雑多。でも残酷さはゴーリーにしては少ないので、これなら女の子や子供へのプレゼント用にいいかも。訳者の柴田氏はあとがきで「それでフラレても責任持ちません」と書いてるが(^o^)。

 柴田氏の訳については、これまでの訳もぎこちなく感じられて不満足ではあったが、今回は文句を付けるのはやや憚られる。なんたって、こういう言葉遊びの本で、英語の韻を日本語に引き写すのはほぼ不可能に近いからである。かつて北原白秋は、『まざあ・ぐうす』で果敢にそれに挑戦して敗れ去った(「とっぴょくりんのとん吉」なんて訳されてもなあ)。和田誠氏が『オフオフマザーグース』で偉業と評していいほどの成功を収めたのは稀有の出来事なのである。
 英語や中国語と違って、日本語は韻を踏むこと自体に難しいところがある。五味太郎の『さる・るるる』のように「る」だけを共通させるとか、その程度のことしかできないので、これは如何ともしがたい。
 内容は短いので、以下にそれを示してみる。

Alms(施し)乞われた施し ためらうな。
Bird(鳥)歌は聞こえど 姿は見えず。
Clumbs(パン屑)親指で拾え パン屑。
Door(ドア)ドア閉めるなら うしろ見てから。
Eye(目)地に人あり 空に目あり。
Fan(扇)扇舞うには 元気が肝腎。
Glass(硝子)硝子の向こうで 過ぎ行く人生。
Hail(雹)雹取る秘訣 常備のバケツ。
Indian Ink(墨汁)赤子泣くとも 墨汁飲むな。
Jam(ジャム)無闇に食わすな 犬にジャム。
Kelp(昆布)昆布選るなら 寄りあって。
Library Paste(澱粉糊)嘗めたらあかん 澱粉糊。
Mouse(鼠)家あれば 鼠あり。
No(ノー)つれない一言 悲しみの元。
Oar(櫂)櫂を持たずに 岸去るな。
Pill(薬)病んだら早急 薬を請求。
Queue(行列)行列は 手仕事の機と心得よ。
Rope(縄)もつれた縄は うっちゃるな。
Sun(陽)一日が済み 陽を拝む。
Toad(蝦蟇)人も歩けば 蝦蟇に当たる。
Urn(甕)触らぬ甕に たたりなし。
Vine(蔓)絡まる蔓に 御用心。
Well(井戸)地獄の道も 井戸から。
X(X)Xの字は 苛つく字。
Yarn(欠伸)欠伸するたび 三文の損。
Zinc(亜鉛)台所流し 亜鉛製。

 例えば、“A”の原文は“Betray no qualms/When asked for Alms.”。
 「施しを求められたら、心のまま迷わずに表せ」という意味だから、訳としては正しいのだけれど、“qualms(不安・良心の呵責)”と“Alms(施し物)”との韻を踏んだ調子はどうにも表せない。
 「施し」あるいは「おめぐみ」という単語は見出し語だし、イラストにも描かれているから、外すわけにはいかない。更にABCに合わせようと思うなら、出だしは「あいうえお」の「あ」とか「いろは」の「い」で始めなきゃならない。で、どこかで必ず韻を踏まねばならないと来たもんだ(-_-;)。
 そういう条件を考え合わせると、相当の意訳、超訳をせねばならない。
 試みに私が捻り出したのは「愛のおめぐみ あなたの御心」ってやつだが、まあゴーリーの雰囲気はやっぱり消えている。付いてるイラストが、汚いホームレス(つか毛むくじゃらのバケモノにしか見えん)に仕方なく何かをあげてる人の絵だから、皮肉っぽさは出たかと思うが。

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09月17日(水)
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