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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■別れの予感/DVD『八つ墓村』/『HUNTER×HUNTER』17(冨樫義博)ほか
 予告編でやたらと「『砂の器』のスタッフが再結集」と紹介されているのは、1977年当時の状況を知るものでないとピンと来ないだろう。1974年公開の松本清張原作による『砂の器』は、松竹映画史上最大のヒットを飛ばし、ロングランに継ぐロングラン、映画賞も次々に受賞し、この『八つ墓村』の前年にもリバイバル公開されやっぱりヒットを飛ばすという、とんでもない状況を生んでいたのである(その記録を『八つ墓村』が破ることになるのだが)。
 当時の総製作費7億円(現在の金額に換算すると15億円程度)、キャストも松竹定連だけでなく、もと東宝の役者さんでフリーになっている人たちも総動員して、実に厚みのある演技陣。
 下準備に6年をかけ(実は最初は角川との共同提携であった。角川春樹と松竹が揉めて袂を分かち、角川映画第一作として『犬神家の一族』が前年に公開されたのは周知の通り。これがかえって『八つ墓村』を宣伝する結果になった)、音楽は『砂の器』の汚名返上、起死回生を狙う芥川也寸志(実は『砂の器』のテーマ音楽『宿命』を作曲したのは芥川さんではない。弟子の菅野光亮さんである。でもあれを芥川さん作曲だと勘違いしている人は当時から多く、芥川さんにとっては忸怩たるものがあったろう)、脚本は黒澤組の橋本忍、撮影は松竹生え抜きの川又昂、監督は横溝「文学」の映像化を長年夢見ていた野村芳太郎。既に『張込み』『ゼロの焦点』『背徳のメス』『五辨の椿』『影の車』『砂の器』などの作品で、ミステリの映像化に関しては第一人者と見られていた。これだけの大作感のある映画は当時はそうそうなかった。
 同時期に『スター・ウォーズ』第一作(今はエピソード4『新たなる希望』って呼ばれてるやつね)が公開されているが、その前年からの宣伝攻勢でSFファンはともかく一般観客は食傷気味になっており、興行自体はたいしたことはなかった。前年からの横溝ブームの方が世間的には圧倒的に上、という状況だったのである。
 では、映画として、完成度は高いかと言うと、そこが微妙な評価になってしまうのである。原作は随分改変され、里村慎太郎・典子(原作のヒロインなのに)の兄妹がカット、重要な役を担う僧侶英泉も同じくカット、いくつかの人物に習合されている。映画的に2時間にまとめる必要があったという事情もわかりはするのだが、ミステリとしての深みが薄まってしまった印象は否めない。
 何より、都筑道夫も「これは推理映画ではなくオカルト映画だ」と嘆いたラスト、詳細は省くが、「あれはないよなあ」なんである。脚本の橋本忍、考えてみたら『幻の湖』の人だものなあ(^_^;)。何のことか映画見てない人にはよく分らないと思うが、ネタバレに属するので、この程度の表現でカンベンしていただきたい。
 それでもこの映画は、私の「横溝正史映像化作品」の中では市川崑の全作を抜いてベスト2になる(1は高林陽一監督作『本陣殺人事件』)。それはたとえ風貌が原作通りでなくても、金田一耕助の内面を見事に表現した渥美清の名演にかかっている。
 金田一耕助は怖い人である。
 人間の心の深淵を覗き、そこでのたうち回り、帰ってきた人間である。かつて麻薬中毒患者でもあった過去までも感じさせる演技を披露してくれた役者さんは渥美さん以外にはいない。
 渥美清の金田一に、「怖さ」を感じた人ならば、私のこの意見にも首肯していただけると思うのだが。


 帰宅したしげと、久しぶりに一緒に外食。
 「焼肉のさかい」へ。「焼き肉」と言うとしげの方から誘ったように思われるかもしれないが、珍しく私の方からである。私もたまには肉に飢えることもあるんで。
 しげ、なんだか情緒不安定。人の悪口がやたらと口を突いて出るが、そんな自分がまた嫌いになるらしい。果てはいきなり別れ話を切り出される。
 「別れたいなら別れてもいいけど、なんで?」
 「最近会ってないから。会ってないと忘れるし」
 「つまり、『夫婦のすれ違いってシチュエーションがあるから、別れなきゃいけない』ってこと? 別れたい理由があるわけじゃなくて?」
 「うん」
 「それって、ムリヤリ『別れのドラマ』作ろうとしてないか?」
 「だって、ドラマ作るの好きだって知ってるやん」

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06月08日(日)
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