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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■パニック・イン・トキオまたはJ○A金返せ凸(`0´)凸/舞台『愛とバカユージ』
携帯の電源を入れて、着信記録を見てみると、やはり3度ほどしげから連絡が入っている。怒ってるだろうなあ、と思いつつも、連絡を入れないわけにはいかない。しげの携帯番号を震える手で押す。
「ああ、しげ? やっと仕事終わったから」
「……ああ」
しげの声、心なしか元気がない。でもなぜか怒っている様子でもない。
「今からタクシーすっ飛ばすから」
「ああ」
「大丈夫だよ、間に合うよ。駆け込みにはなると思うけど」
「ああ」
……確かに反応がおかしい。気が抜けているというか、上の空と言うか、そんな感じだ。しかし、今は疑問に頭を捻っているヒマはない。とにもかくにも、ただひたすら空港を目指すしかないのだ。
拾ったタクシーの運ちゃんが、私の「急いでください」の越えにお気楽に「(1時)40分には着きますよ」と答える。「えっ? 40分もかかるんですか?」と聞き間違う私。「いえ、10分くらいで着きますよ」と言って運ちゃんは時計を指差す。私も相当焦っているのである。
ぴったり40分には着かなかったが、45分過ぎには福岡空港に到着。港内に駆けこむと、丁度そこにしげがいた。
息せき切りながら側に駆け寄って、声をかける。
「搭乗手続きはした?」
うなづくしげ。
「じゃあ、急いで行こうか。もう乗りこまんといかんやろ」
「まだ乗れんよ」
ようやくしげの表情がヘンなのに気がついた。いつもヘンな顔だが、それがどうももっとヘンなのだ。
「出発が遅れてるの? 雨のせいか?」
「違うと。コンピューターのシステムエラーで、全然飛行機が飛んどらんと」
「はああああ?」
「あんたに連絡しても全然繋がらんし、帰ろうかと思ったけど……」
そう言って、しげは、ごそごそとチケットを取りだした。
「予約しとったのは4時過ぎにならんと飛ばんのよ、だけん、一つ前の便に切り替えてもらった」
その「一つ前の便」も、本当は12時40分に出発の予定が、2時40分に遅れているとのことである。しかし、決して今日の芝居の公演に間に合わない時間ではない。4時なら絶望的だが。
多分、慌てて前の便に切りかえた客もほかにたくさんいたと思われる。殆どの便が飛んでないとすれば、そうそう座席に余裕があったとも思えない。飛行機が欠航、と聞いた時点でしげ、すばやく席を確保したのだ。
これが普通の人間なら、「おお、よくやったじゃん」のヒトコトですむところである。しかし、ここで機転を働かしたのは、あのしげなのである。血の巡りが人より五倍は遅い、しげなのである。結婚以来、いや、出会ったその日から数えても、ここまで臨機応変に対応できたことなど一度もない。なんという奇跡か。私の脳裏にいきなり「花のワルツ」が響き渡った。
思わずしげを抱きかかえて、空港ロビーでフラメンコを踊りたい気分になったが、体力がないのでやめる。目線だけはしげに熱く熱く送っといたから、多分私の喜びに気がついてくれたことであろう。
搭乗手続きを済ませて、発着ロビーに移動。大荷物をそのまま持ちこもうとする私を見て、「手荷物四つも持ちこめないんだよ」としげが心配するが、無視。荷物を全部預けてたら、到着口でやたら待たされるのは経験済みである。第一、空港の係官も実際には3、4個の手荷物を持ってても文句はつけないのだ。
昼食を食べてなかったので売店を覗くが、これと言って食べられそうなものがない。サンドイッチ一つないのだ。仕方なく、フグのカマボコを買って、お茶で飲む。しげにも食うかと奨めるがクビを横に振る。とても落ちついていられないらしい。「もう間に合わんよ」とボソリと呟く。
「間に合うよ。オレ、こういうときの運は強いから」と慰めるように言うが、しげ、「ナニ根拠のないこと言ってやがんだこのクソオヤジ」といった目で私をギロリと睨む。どうも気休めが通じる心境ではないらしい。
離陸予定の2時40分を過ぎても、搭乗カウンターは閉鎖されたまま。「搭乗予定の飛行機が到着」とだけアナウンスが流れたが、今、飛行機が着いたばかりなら、点検でまだまだ時間がかかるはずだ。
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03月01日(土)
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