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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■映画を見る以外に休日の過ごし方なんてあるんですか/映画『音楽』/『プーサン』/『エデンの海』/『日本一のホラ吹き男』
プーサンこと野呂米吉(伊藤雄之助)が、いきなり銀座でトラック(軍用っぽい)に撥ねられるところから物語は始まる。幸い大した怪我もしなかったプーサン、「ぼくは銀座に出て来たのは久しぶりでしてねえ」と呑気なことを言ってヘラヘラ笑っている。車に撥ねられそうになったのも戦後復興の謂いかと喜んでたりしているのだ。
プーサンの後ろで蒲鉾屋がさかんに「政治の貧困ザンスねぇ!」とナンセンスなことを言っている。もちろんこのセリフで察せられる通り、演じてるのはトニー谷。「家庭の事情」に続いてこの「政治の貧困」も流行らそうとしたところだろう。
応急治療はしたものの、プーサンは下宿近くの渋谷の診療所に回される。そこの医者・手塚先生は木村功、看護婦・織壁さんが八千草薫。なんだかここ数日、八千草薫ばかり見てる気がするが、1953年当時22歳。匂うがごとき清純な美しさである。『プーサン』『今宵ひと夜を』『白夫人の妖恋』と時代を追って、更に『ガス人間第一号』まで見ていくと、八千草薫が清純な少女から、男を虜にする魔性の女へとオトナになっていく様子がよく分る。で、最後は『サトラレ』の呑気な婆ちゃんになると(^o^)。
プーサンの住む下宿の大家は三人家族、銀行に勤めるそこの一人ムスメがガンコさんこと金森カン子(越路吹雪)である。越路さん、市川崑作品には『結婚行進曲』『足にさわった女』に引き続いての出演で、このとき御年28歳、後年のハデな化粧はもちろんしてなくて、印象はクールビューティーである。転んで頭を打っても「痛くない!」、銀行では同僚からガメツク借金を取りたて、「映画見るよりストリップの方がいいわ!」と嘯き、恋人(黛敏郎!)との結婚を反対されたら自殺未遂しちゃうという、ガンコっていうより偏執狂的なキャラをサラリと好演している。
「野呂さんといると気分がのんびりするわ!」と言われてプーサン、ぽわーんとなる、つまり彼女がプーサンのマドンナってわけである。もちろんこの恋、成就はしないんだけれど。
プーサンの職業は、今で言う予備校の数学教師。けれど塾長(加東大介)から
は安く見られていて、夜間に回されるわ給料は減らされるわ、でも要領の悪いプーサンは文句一つ言えない。それどころか、その要領の悪さが祟って、左翼学生・古橋(山本廉)の口車に乗せられてウッカリデモに参加してしまい、あの「血のメーデー事件」に巻き込まれて、予備校をクビになってしまう。
慌てて少ないコネをたどって再就職に奔走するが、もちろんどこも雇っちゃくれない。なんとか臨時雇いで潜りこんだのは、倉庫での梱包係。送る荷物はなんと銃弾である。もちろんこれは朝鮮戦争で使われるものだ。
ラストシーン、銀座をあてどなくさ迷うプーサンを再び軍用トラックが撥ねかける。もうプーサンは笑ってはいない。街路には、汚職事件で失脚したのに、自伝を出してベストセラーになった政治家のポスターがズラリと貼られている。
世相マンガの映画化は、やはり世相映画であった。
脚本のセリフにも「戦争になるかねえ」とあるが、多用されるニュースフィルムなどを見ていても、1950年ごろの日本人が、どれだけ戦争の恐怖に怯えていたかが伝わってくる。
当時の様子を語ってもらうために、岸田今日子がゲストに呼ばれて、八木亜希子がインタビューする形で解説をつけているのだが、「警察予備隊」が街中を行進するフィルムを見た八木さんが、「これ、戦前のシーンですか?」と聞いていたのがトンチンカンではあるのだけれども興味深かかった。
紛れもなく、アレは軍隊なのである。ただそれが戦前のフィルムではなく、間違いなく戦後の風景だということがハッキリ分るのは、沿道の人たちが誰一人として旗を振っていないことだ。みんな、目の前の情景をどう受け取ればいいのか困惑し、苦渋に満ちた顔をしている。さて、現代だと自衛隊の行進に旗を振る人はどれだけ増えているだろうか。
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02月11日(火)
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