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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■ベスト?/『赤ちゃんをさがせ』(青井夏海)/『じつは、わたくしこういうものです』(クラフトエヴィング商會)/映画『白夫人の妖恋』
 ちなみに、読者選出ベストテンでは上位はたいして変わらないが、『青空侍』は13位に、『千年女優』は23位に食いこんでいる。少しは洗脳効果があったと見るべきか。

 
 青井夏海『赤ちゃんをさがせ』(創元推理文庫・672円)。
 『名探偵コナン』なんてミステリでもなんでもない、ただのクズじゃと散々罵倒してるから、だったらオマエの考えるいいミステリってのはどんなんだよってツッコミたがってる人は結構いるかもしれない。
 そういう人に一度読んでもらいたいのがNHKテレビ化のこの作品。
 あの『スタジアム虹の事件簿』で、虹森多佳子というおばあちゃん名探偵を登場させた青井夏海さんが、またまたおばあちゃん探偵を創作。
 しかも今度のおばあちゃんは元助産婦にして完全なる安楽椅子探偵!
 あ、ここで「安楽椅子探偵(アームチェア・ディティクティブ)」について説明しておくと、事件を実際に捜査するんじゃなくて、人から事件の話を聞いただけで見事な推理力を発揮して真相を見抜いてしまうっていう、天才型の探偵の総称なのね。その元祖はバロネス・オルツィの『隅の老人の事件簿』。日本でも都筑道夫の『退職刑事』シリーズなどが有名。純粋にデータのみで推理するってところがまさしく本格ミステリの神髄。
 さて、物語の主人公は、見習い助産婦(今は助産師というようになった)の亀山陽奈。主役だけれども、後ろに探偵役の推定70歳・明楽知代(あきら・ともよ。なんだか名前が乱歩の明智文代夫人に似てるねえ)先生が控えているから、陽奈ちゃんは「走るワトソン役」というわけ。ワトソンというより銭形警部じゃないかってくらいにトンチンカンなことしまくってますが(^o^)。
 助産婦っていうのは昔の産婆さん。つまりは自宅出産を希望する人のためのちゃんとした職業なんだけれど、病院で子供を産むことが普通になった現代では、かえって偏見の目で見られることも多い。そのせいで現実にトラブルもいろいろ起こってるみたいだけれども、この物語では一風変わったトラブルに陽奈たちは遭遇してしまう。
 第一話『お母さんをさがせ』。
 どうしても跡継の息子がほしい大富豪の苦肉の策とは、なんと妊娠した三人の妻(そのうち二人はニセモノ)のうち、誰か一人でも男の子を産んだらその子を自分の実子とする、というもの。そんな女性を子供を産むためだけの道具とするなんて、と怒り心頭に発した陽奈ちゃん、ホンモノのお母さんは誰だ? と探し始めるが……。
 第二話『お父さんをさがせ』。
 イマドキの女子高生、理帆は友達の透くんと「できちゃった婚」をすることに。でもカタブツの両親はとても許してくれそうにない。そこでわからずやの両親にナイショで子供を産む決心をする。
 ところがそこに現われた二人の男は、まるで「赤ちゃんの父親は自分だ」と言わんばかりの行動を取り始める……。
 第三話『赤ちゃんをさがせ』。
 一番サスベンスフルな一編。陽奈の同僚、聡子が最近沈んでいるわけは、別れた元夫、宝田につきまとわれているから。折りしも自宅出産の依頼が続々とキャンセルされる。これも宝田のいやがらせのせいなのか……? 事件は、信仰宗教もからんで赤ちゃん拉致事件にまで発展してしまう。
 毎回毎回、殺人の復讐の、とギスギスした物語展開が鬱陶しい最近のミステリマンガに比べて、青井さんの小説のなんと爽やかで清々しいことか。ミステリ読むなら、こういうのから始めましょうよ。


 クラフト・エヴィング商會著・坂本真典写真『じつは、わたくしこういうものです』(平凡社・1995円)。
 いわゆる「企画本」ってやつである。
 体裁は、いろんな職業の人に取材して、その特徴を語ってもらう、という形を取っているのだが、もちろん、“そんな職業はない”。

 一つめの職業。
 「月光密売人」である。
 小栗六郎・58歳。背広を着た目つきの悪い男が、空を斜めに睨んでいる。あの月の光を昼の日中に売る。夜売るのではないから「密売」と洒落た。そう小栗氏は語る。

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02月07日(金)
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