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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■革命児の帰還/『ヒカルの碁』20巻(ほったゆみ・小畑健)/『ななか6/17』9巻(八神健)/『パタリロ西遊記』5巻(魔夜峰央)
 外は寒い。ムチャクチャ寒い。
 仕事を終えて駐車場に行ってみると、しげの姿がない。
 電話を入れて見ようと思ったが、運の悪いことに携帯の充電が切れていた。昨日までは満杯だったのに、なんでいきなり切れるかな。
 仕方なく、公衆電話でウチに連絡を入れるが、応答がない。
 普通ならもうこちらに向かっていて、ウチにいないのかも、と判断するところだが、しげの場合、寝過ごしていることが圧倒的に多いので、信用できない。寒い中、ずっと来るか来ないか分らないしげを待ってたら、ますます風邪が悪化してしまう。
 以前、「1分でも遅刻したら先に帰っていい」と約束していたので、タクシーを拾って帰る。
 ところが帰宅してみたらしげの車が駐車場にない。
 慌ててしげに電話連絡を入れる。
 「今、どこにおるん?」
 「駐車場」
 「なんで遅れたん?」
 「遅れたつもりはないよ」
 「オレ、3分は待ったぞ」
 「オレもウチに電話入れたよ。もしかして先に帰ったかと思って、電話入れたけど誰も出んから、まだ仕事してるんかと……」
 「1分でも遅れたら先に帰るって約束しとったやんか!」
 「だから遅れたって気がつかんやったと!」
 「ともかく帰って来い!」
 もういい加減でこんな下らんことで言い合いをしたくはないので、ともかくも帰宅させる。食事に出かける時間が減るのももったいない。
 出かける前に、忘れないうちにと無駄に使ったタクシー代を請求すると、しげ、烈火のごとく怒る。
 「なんで!? アンタが勝手に使ったんやん!」
 「勝手じゃないだろ!? 送り迎えに遅れたらタクシー代払うって約束しとったやんか!」
 「だから時間に遅れたつもりないって」
 「遅れてたの事実やろうが!」
 「なんであんたがいつも正しいとよ!」
 言い合いをしているうちに吐き気がしてきた。風邪の具合、また少し悪化したらしい。
 しげのカネに拘る態度も下品で憎たらしいが、もう何日もこちらの具合が悪いとわかってるのに、少しも気遣う素振りがなく、こんなことで文句をつけてくるのがますます憎たらしい。

 そうなのだ。
 私だって別にしげから金をせびり取りたいわけではない。
 しげが私のことを気遣って「車で送り迎えしちゃる」と言い出したとき、今まで散々騙されて来ている経験から、「今回もアテにはならんよなあ」と思いはしたのだ。
 しかし、ただでさえ何一つ家事をしない、ウチではただの寄生虫と化しているしげに「ウチにいるための理由」を与えるとしたら、しげに何か「私にはできないこと」をさせることしかないのである。けれど、食事も掃除も私がやった方がずっとマシ。でも車の免許だけは、私には視力がないから取れない。
 となれば、結論はハッキリしている。マジで今、しげにはこの「送り迎え」くらいしか私の役に立てることがないのだ。つまり、私は夫として、たとえしげが自分のした約束を忘れ果てようと、「ちゃんと朝起きて職場まで送れ、帰りは時間に遅れずに迎えに来い」と言うしかない。
 これは横暴でもなければ亭主関白でもない。
 こんなことでしか我々は、夫婦としてのコミュニケーションが取れないのである。
 ……しげが家事をしようって気を起こしさえすれば、こんな送り迎えも要らないんだけどな。

 しげが拘っていたのは、「携帯の電池が切れてなかったら」ということだったが、それはしげが時間に遅れたこととは別問題である。遅れなきゃ携帯の電池が切れてようがいまいが関係ないんだから。そのリクツがアホなしげにはなかなか理解できなかったが、興奮しているのを落ちつかせて、なんとか理解させた。
 それでも不満は残っているようだったので、携帯がどの程度電池が持つものか確認することで折り合いをつけた。
 また、これまで「1分でも時間を過ぎたら帰る」という約束だったのを、「5分は待つ」ということでも合意。それでも遅れたらちゃんと文句を言わずにタクシー代を払うことを約束させたが、どうせまた忘れるんだよな。自分が貸したカネのことは忘れないが、人にカネを払う段になると自分に都合の悪い約束はケロッと忘れやがるのだ、この卑怯者は。

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01月09日(木)
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