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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■料理は好きなんだけどね/『帰ってきたウルトラマン大全』(白石雅彦・荻野友大)/DVD『アリーテ姫』/DVD『椿三十郎』ほか
 結局、福岡までは来なかったんじゃないかなあ、世評はすごく高かったというのに。というわけで今回見るのが初めて。『名探偵ホームズ』の片渕須直氏の初監督作品ということで興味を持ってたんだけど、片渕さんの名前知ってる人も少ないんだろうなあ。
 原作はダイアナ・コールスの『アリーテ姫の冒険』。と言っても映像化に当たっては結構アレンジがされているらしいが、未読なのでよく分らない。映画の方は一言で言ってしまえば、深窓のお姫様が、魔法使いに攫われたのち、ただの一人の人間として生きて行く決意をするまでの物語である。
 非常に丹念な作りがされてしいるし、中世の世界のように見えたものが、実は失われた科学技術の崩壊したはるか未来世界の話、とわかって驚くような仕掛けはあるのだが、全体的にひたすら地味である。作画は丁寧、演出も堅実で、CGIのさりげない使い方も見事なのだが、アニメーションとしてのカタルシスには乏しい。同じようなテーマを映像化するなら、1960、70年代の東映動画だったらもっと楽しく派手に演出してくれたものなんだが。
 もちろん本作は、惹句にもある通り、「自分に迷い、自分にできる何かを探しているすべての世代の人たちに見てほしい、こころの冒険の物語」である。私のように「今さら自分に迷ってるほどヒマ人じゃねーよ、自分にできることなんてもともとない、そんなふうに考えるのはただの思い上がりだ」と思ってる人間にとっては無用の物語である。私にできることはせいぜい「アリーテちゃん、がんばれ!」とかげながら応援することくらいだ(^o^)。
 けれどやはりこの映画は「今」の人に見てほしい、そして感想を聞いてみたい、と思わせる物語である。具体的に名前を上げはしないが、この日記の読者であるあの人やあの人が見たらどう思うかなあ、とか想像しながら見た。
 アリーテは美人ではない。求婚し夜這いしてくる隣国の王子たちも、別に人間としてのアリーテを求めているわけではない。それを知悉しているアリーテは、門番の目を盗んでは街中を身分を隠して歩き、自分がここで何をして生きていけるかを模索する。それはまさしく「自分探し」の彷徨だ。
 しかし、本来、文学や芸術はそういった個人のさ迷いの果てにある「世界」を描こうとすることに主眼があった。そう考えると、この『アリーテ姫』の物語は、ラストに至ってようやく「物語」が始まるのであって、本編自体は「文学以前」を描いたものとしか言えない。もっとはっきり言えば、「人間」の物語はようゆくこのラストから始まるのである。
 そういう物語を現代の若い人が本当に欲しているとすれば、そういった人たちはまだ「人間ではない」ということにもなる。「あなたはまだ人間じゃないでしょ?」と言われて、若い人たちはそれでもこの物語に感動してしまうのだろうか。実際、私が「すべての世代の人たちに」という言葉を不遜に感じてしまうのは、「いいオトナがさあ、今更自分探ししてるようじゃ、人として情けないじゃん」と思ってしまうからである。
 だから私は、こういう映画が作られてしまう「時代」が悲しいなあ、と思うのだ。まあ、太宰治や三島由紀夫にかぶれる人を哀れむのと同じような感覚なのね。


 DVD『椿三十郎』。
 黒澤明『用心棒』シリーズの第2作(第3作は監督が代わって稲垣浩監督の『待ち伏せ』。岡本喜八の『座頭市と用心棒』は番外編と見るべきだろう)。
 原作は山本周五郎の『日々平安』で、メイキングで小林桂樹が語っているところによると、本来、主演は小林さんの予定だったそうである。確かに原作のイメージなら小林さんのほうがうってつけだ。チョイ役出演の小林さんが、タイトルロールでは三船敏郎、加山雄三に続いて三番目なのにはそういう理由があるのだろう。

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12月23日(月)
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