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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■ベスト・オブ・ザ・魔女っ子/DVD『コメットさん☆』BOX SIDE A/『ワンピース RED』(尾田栄一郎)ほか
 星国の舞踏会、華やかに踊る人々の輪から離れて、暗い廊下を走り去る少女のシルエット。
 「姫様!」
 という呼び声だけが虚しく谺している。
 突然、向こうからも走ってくる少年の影。
 すれ違いざま、暗闇の中、輝く何かが宙を舞い、廊下に落ちる。
 少女に目もくれず走り去る影。
 落ちた「輝き」に白く細い指が伸びる。
 振り返る少女に初めて光が当たって……。
 そして、オープニングソングのタイトル。
 「輝き」が宙に浮かぶ。
 「コメットさーん!」
 「はーい!」

 静謐の中の緊張、光と影のコントラスト、まさしくこれは一編の詩、いっぺんの映画!
 なによりヒロインの少女をここまで美しく登場させた例がこれまでにあったろうか! 演出によっぽど自信がないと、ヒロインを真正面から捉えずに、「見返り」で初登場させる(しかもやや俯瞰のアングルで!)なんてとんでもないこと、やれるもんじゃないぞ!

 ああ、もう、ディテールの一つ一つまで全部解説したくなるくらい「演出」っつーのはこうやるんだ! と誉めそやしたくなるんだが、そうもいかない。
 ともかくキモだきゃ書くぞ!

 『コメットさん☆』のあらすじはもう、たいていの人がご存知だろう。
 地球に逃げて行ったタンバリン星国の王子を追って、やってきたコメット、けれど実は王子様なんてどうでもいい、お母さんがかつて素敵な思い出を作ったという地球への憧れ……。
 ただそれだけのためにコメットは鎌倉の街に降り立つ。
 けれど、コメットは地球で散々な目に逢う。
 食べ物もない、住むところもない。
 雨に降られて公演のベンチで泣き濡れる。
 脚本と演出の凄さは、ここでも最大限に発揮される。
 おカネがなくて食べ物も買えないコメット。
 昔のアニメだったら、「カネもないやつにものは売れねえな!」と怒鳴らせるところだ。ちょっとした行為でも「善悪」をハッキリさせたいつもりかもしれないが、考えてみたらこんな不自然な、芝居がかったセリフはない。
 ところが、コメットにおカネがないと知った街の人たちは、ただ「困る」だけなのだ!
 街の人たちは、ごく普通の人たちだ。
 悪人であるわけもない。
 目の前に11、2歳の女の子がいて、おなかをすかしているようなら、かわいそうだと自然に思う。
 かと言って、5、6歳の子供ならともかく、ある程度大きくなってる少女に、食べ物をおごってやるほどの親切は普通、しない。
 ただ、「困る」だけで。
 うわあ、すごいよすごい、この人間洞察力! 
 紋切り型でない、こんなリアルな描写をやっていたとは!
 あのねアンタ、こんなん、『どれみ』が100話束になったってかなわん描写ですがな。
 この「リアルさ」、最終的にコメットを救うことになる藤吉家のママにも共通している。彼女がコメットさんを救ったのは、半ば子供たち、ツヨシくんとネネちゃんの懇願によるところが大きい。
 慈愛に満ちた人柄が設定されていながら、それでも初め沙也加ママはコメットさんを警戒し、いかにも家出少女っぽいこの子をどうしたらいいか、迷うのである。
 コメットさんが外人であること。
 ホームステイ先が見つからずに困っていること。
 「困ったさんは助けましょう」と日頃子供たちに教育していること。
 コメットさんのママと連絡がついて、ようやく責任の所在がはっきりしたこと。
 あくまで「お手伝いさん」として働いてもらうこと。
 これだけの事実を確認し、条件が整ってやっと、藤吉家はコメットさんを受け入れるのだ。
 ただのキレイゴトの愛情だけで行ってることではない。
 
 これだけリアルな設定でドラマを作るとは、いったい何者だと思ったら、脚本、元シンエイ動画で数々の藤子アニメを作ってきた、おけやあきらさんだったのだ。日常の中からファンタジックな非日常を描き出すことにかけちゃ、もうベテラン中のベテランではないの。
 つまりこれって、おけや版『チンプイ』だったんだね!
 ……オレ、ホントに今まで『コメットさん☆』の何を見てきたんだろう。


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02月24日(日)
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