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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■血管をタテに切る女/アニメ『七人のナナ』第4話/『ガウガウわー太』2巻(梅川和実)ほか
 「だからあ、部屋が片付いてないのにそう簡単に人呼ぶなよう!」
 じきに穂希嬢、M子さんを連れて来訪。
 劇団の人ではないので芸名はないが、こう、イニシャルで書くっての、何となく「少女A」っぽくてなんか書きにくいな。
 一昔前の女性雑誌によく載ってた非行少女の実録更正モノなんか連想しちゃうのよ(って、いつの時代だ)。

 「ほんの出来心からだった。
 その日を境に、M子の生活は百八十度変わってしまったのだ。
 ポプラの並木道。倶楽部活動ですっかり遅くなってしまったM子を待ち構えている男がいた。
 破れた学生帽。上ボタンを二個も外した学ラン。町内でも札付きのワルと評判のヨシオだった。
 『あっ、あなたは、ヨシオさん!』
 『へっへっへ、M子。今日はずいぶんと、ショッてるじゃねえか』」

 わはははは、昭和30年代だったら、もしかして流行作家になれるかもしれんな、私。……いや、秋元文庫とか、こんな感じの文体、多くってね。
 今でも、「ある女」に小説書かせると、こんな感じの古色蒼然とした小説書くけど。
 ああ、もちろん、しげのことですよ。
 何しろアイツの文体のベースは「南洋一郎」(←ポプラ社の『ルパン全集』の訳・作者ね)だから。
 とゆーか、ある一定の年代の人間まで(多分、昭和50年生まれくらいまで)は、たいてい南洋一郎か江戸川乱歩の文体に影響受けちゃうんじゃないか。特にセリフ回しに。
 何かに驚いたとき、人物のセリフに、つい「あっ」って付けないかな。ルーツはもちろんもっと古いんだろうけれど、直接的には乱歩や洋一郎の文に接したせいでそう書いちゃうんだと思う。そういった自分でも気が付かないところに影響を与えてるとこが、この二人が認められざる巨匠であるってことなんだと思うんだが。

 話が全然逸れたが、M子嬢、穂希嬢と雰囲気がよく似た感じである。
 まあ、穂希嬢とマトモに付きあってられるってことは、もう絶対にエロエロOK、「壁」を作る必要がないってことだろうから、もう初対面だってのに初手から飛ばす飛ばす。ちょっと、ここには書けないけど(^_^;)。いやもう、エロばかりでなく、もう一般の常識では計り知れないことを平気で喋くりまくってるんである。

 え〜っと、以下の内容はちゃんと穂希嬢の許可をとって書いてるので、誤解のないように。
 しげや穂希嬢が先日雑談していて、なんの拍子か、「正しい自殺の仕方」についてのトークが始まったんだとか。
 「確実に死ぬんなら、やっぱり手首切るのが一番ですよね」と穂希嬢。
 しげたち、ウンウンと頷く。
 「で、こないだ自殺しようと思って、手首切ってみたんですよ」
 しげたち、ウンウンと頷く。
 「確実に死ななきゃなあ、と思って、それには血管を切らなきゃと」
 しげたち、ウンウンと頷く。
 「で、左手のここ、血管が浮き出てるでしょ? これを切ろうと思ったんですよ」
 しげたち、ウンウンと頷……きかけて、おや? と首を捻る。
 「で、横に切っても深く切れなかったらいけないなあって、血管に沿ってタテに切ってみたんですけど、これがうまく切れなくて……」
 しげ、穂希嬢の肩をポン、と叩いて一言。
 「ハカセ、動脈と静脈の違いって知ってる?」

 いや、穂希嬢も穂希嬢だが、しげも「どうして自殺なんてしようと思ったの?」とか、そっちのほうを心配しろよ。
 理由を聞かなかったのはなぜ? と、しげに聞いたら「そんなんどうでもいいもん」。
 しげの前では、どんな不幸も相対化されちゃうんだよなあ。
 だからみんな、安心してしげにはいろんな相談持ちかけるんだろうけど。

 そんな話を聞いてたんで、さっそく穂希嬢に聞いてみる。
 「ハカセについてこんな話を聞いたんだけど」
 「なんでしょう?」
 「静脈をタテに切ったとか」
 「ああ、そうなんですよ、おかげで『絶対に自殺できない女』ということで評判をとって」
 評判なんか、それは。
 ともあれ、実にあっけらかんとしたもんだ。どんなフィクションよりも、現実に生きる人間のほうがずっとずっと強く、面白い。

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01月31日(木)
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