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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■“神様”を読むこと/『SFJAPAN vol.3 冬季号 手塚治虫スペシャル』ほか
 若いアニメファンの方々にも、千葉さんの命懸けの演技を今からでも追っかけて、『うる星』中でも傑作の声高い『さよならの季節』や『スクランブル! ラムを奪還せよ!』なんかを見てほしい。役と役者が一体化した稀有な名演がそこにはあるのだ。


 『SFJAPAN vol.3 冬季号 手塚治虫スペシャル』(徳間書店・1800円)。
 う、うわあ、こりゃすごいぞ!
 もう、これはプロの作家さんたちによる「手塚治虫同人誌」と言ってもいい。
 パロディと言うか、パスティーシュと言おうか、手塚ファンの作家たちによる“新作”小説の数々。
 井上雅彦『ブラック・ジャック』(イラスト・小島文美)
 太田忠司『W3』(イラスト・あさりよしとお)
 大塚英志『ふしぎなメルモ』(イラスト・羽海野チカ)
 梶尾真治『鉄腕アトム』(イラスト・村田蓮爾)
 草上仁『ミクロイドS』(イラスト・安倍吉俊)
 田中啓文『三つ目がとおる』(イラスト・安彦良和)
 五代ゆう『バンパイヤ』(イラスト・篠原烏童)
 二階堂黎人『火の鳥』(イラスト・大本海図)
 牧野修『ビッグX』(イラスト・菅原芳人)
 森奈津子『リボンの騎士』(イラスト・多田由美)
 山田正紀『魔神ガロン』(イラスト・開田裕治)
 若木未生『ルードウィヒ・B』(イラスト・なるしまゆり)
 更にはとり・みき、唐沢なをき、水玉螢之丞のマンガ、小松左京、うしおそうじ、校條満、中島梓、池田憲章、米澤嘉博のインタビュー評論、有栖川有栖、上遠野浩平、貫井徳郎、ひかわ玲子、藤木稟、古橋秀之、山本弘、伊藤伸平、草K琢仁、藤原ヨウコウ、星野之宣、安永航一郎、わかつきめぐみのエッセイ、永井豪と寺田克也、杉井ギサブローと富野由悠季の対談、そして、これが一番の大目玉、未完に終わった手塚治虫自身のオリジナル『COM版 火の鳥・望郷編』!
 思わずほとんど目次を引用してしまったけれど、そうでもしなけりゃこの豪華さ、とても伝えきれないだろう。

 残念なことに、手塚治虫という存在は、若い世代、特に手塚氏自身がターゲットにしていた10代の少年たちにとっては、もはや“神様”でもなんでもない。過去の人、というより、存在自体を知らない者も多いというのが実情だ。
 手塚治虫が亡くなってもう12年、その間、手塚治虫の“伝説化”“神格化”は徐々に進んでいった。
 しかし、それはたいていシンパの証言によってその偉大さ、ヒューマニズム、未来への視点などが語られるばかりで、その作品自体を鑑賞する機会はかえって減ってきている。
 その是非はおくとして、石ノ森章太郎、藤子・F・不二雄両氏の作品が、作者を変え、継続されつづけているのに対して、手塚作品は、『コミック伝説マガジン』の『鉄腕アトム』の例のように、継続性を拒否されている。
 作品が生きる、ということは、誰かによって語られる、ということではない、読まれ続けることだ。そして、本当にその作品世界が愛されているものは、作者の死後も数多くのパロディ、パスティーシュを生む。
 シャーロック・ホームズしかり、アルセーヌ・ルパンしかり、ジェームズ・ボンドしかり。
 なのに結局、手塚作品は神棚の上に飾られたまま、ただ拝まれるだけの存在になってはいなかったか。
 そのことを考えると、この本は手塚氏の死後、初めて生まれたと言っていい「手塚作品の新作」なのである。手塚治虫ファンならずとも、これだけ読み応えのある本を見逃す手はないと思うがどうだろうか?

 もちろん、全ての作品が傑作、というわけにはいかない。
 実はまだ全部読んではいないのだが、読んだ中でも大塚英志の『メルモ』なんかは、作者自身がオトナになったメルモと恋に落ちるという自分の妄想をそのまま引き移しただけの作品で、ちょっと開いた口が塞がらない。
 読者が望んでるのは手塚治虫の「新作」「続編」なんであって、手塚ファンのオナニーではないのである。
 いみじくも梶尾真治がこう書いている。
 「自分だったら、どんなアトムが読みたいかと考えてたら……やっぱり『書かれていたかもしれないアトム』なんだなあ。」

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12月10日(月)
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