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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■『題未定』ってタイトルのエッセイ集があったな/『キノの旅W』(時雨沢恵一)ほか
今日は一日仕事だけれど、時間に余裕があるので、何冊か本が読める。
ナンシー関『耳部長』、週刊朝日連載『小耳にはさもう』の文庫化4冊目。
ナンシー関のエッセイのどこが面白いかって、我々がウスウス感じている「こんな芸能人いらねえよなあ」という思いを的確に言葉にしてくれてる点にあるだろう。
実際、日常生活の中じゃ言いにくいんだよね、「橋田壽賀子ドラマなんて要らない」なんてさ。『渡る世間は鬼ばかり』、楽しみにしてるトシヨリだって現実にいるから、下手なこと言ったりしたら「キサマに老人の楽しみを取り上げる権利があるのか」とか、サベツ問題にまで発展しかねない。
でも、やっぱり心の奥で我々は思ってるわけよ。
「泉ピン子、大根役者のただのブス」って。
トシヨリっつったってさ、せいぜい50代、60代なんであってね、所詮はテレビ世代だから、役者の演技力見抜く「通」なんてのはそうそういないのよ。『渡る世間』見てるとさあ、一見、泉ピン子、間の取り方も絶妙で、演技うまそうに見えるんだよね。だけどあれはカット割りでそう見せてるだけなの。編集の妙ってやつね。赤木春恵やえなりかずきに突っ込まれて、フッと目を逸らす、そういう「やり取り」のところじゃ必ずカット割ってるから、今度見て、確かめてごらんなさい。見たくもないですか。すみません。
実際、なんであんなに威張ってるのだ、橋田壽賀子と泉ピン子。
この本に紹介された二人のセリフはこうである。
泉ピン子「あたしがバラエティー出身だって知らないね」
知ってどうする。『ウィークエンダー』あがりなんて威張れたこっちゃないぞ。あの当時からどつかれるだけの芸ナシだったくせに。まだ桂朝丸(現・ざこば)の喋りまくりの「〜なわけだ」のほうが面白かったわい。
橋田壽賀子「ああいうのが受けるというのは国民がバカになったのでは」
「ああいうの」ってのは「人の不幸をネタにする番組だと」……それ、モロ『渡る世間』じゃん。「一億総白痴化」なんてのは40年も前に言われてて、そのときドラマ書きはじめてるのが橋田さんなんで、これも「近頃の若いもんは」と同じ愚痴なのだね。ナンシーさん、ヒトコトで橋田壽賀子を切り捨てている。
「お前が言うな」
……だよなあ。
確かに24時間ずっと番組が流されている今は、下らん番組のてんこ盛りなんだろうけれども、角野卓三など一部の役者を除いたら、橋田ドラマって「他じゃ使えない」大根役者を囲ってるだけだってこと、みんな知ってるんじゃないか。そんなん見て喜んでる視聴者を温存させてること自体、国民をどんどん白痴化してることになるんである。
でもそれ言いだしゃ、ナンシーさんについても「消しゴム版画なんて要るのか」と返されかねないけど、まあ、愛嬌があるだけ罪はないってことで。
時雨沢恵一『キノの旅W』。
ロードムービーのような現代の寓話、第4弾。
社会の矛盾を描きながらも、答えをあえて出そうとしないバランス感覚は4作続いても変わっていない。というより、より透明感を増している。
岡田斗司夫『フロン』との関わりもあってか、面白く読めたのは『二人の国』。
妻を殴る蹴るのと虐待しまくっていた夫が、妻に虐待され返された途端に言うセリフがギャグである。
「私は今まで、立派に家庭を支える、よき夫であろうと、精一杯努力してきました。つきあいを断ってまで、仕事から早く帰ってきて……。妻との会話の時間を出来るだけ作ったり、休日には家に一緒にいたり、同じ趣味を持ったり。だから、妻も絶対に喜んでいてくれると思ったのに、どうしてこんなことになって……。彼女は絶対におかしい。むりやりにでも、病院に連れていくべきなんでしょうか?」
大なり小なり、男って女に対して、こういう言い訳を持ってるんだよなあ。
家庭を顧みない夫は「家のことは妻に任せてる。なのにしっかり出来ないのは妻のせいだ」。じゃあマイホームパパは大丈夫かと言うと、「自分はちゃんと家庭に貢献してるのに、しっかり出来ないのは妻のせいだ」。……同じなんだよね。で、暴力を行使する正当性を主張するのだ。
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08月02日(木)
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