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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■驚天動地/『ストレート・チェイサー』(西澤保彦)ほか
 ……初めの展開はまさしく正統的な本格ミステリなんだよね。でも『少女の時間』や『SF JAPAN』の対談でやたら奇抜な作品を書いている作家さんであると紹介されていたし、文庫のオビに「感動の最終行があなたを待つ」なんて書いてあったので、さて、いったいどんな驚天動地のトリックをし掛けてくるものやら、と期待して読んだんですがね……。
 うん、こりゃ確かに“問題作”だわ(^_^;)。
 多分、読者の中にはあたかも『エヴァ』最終回を見た時の人々のように、「ざけんじゃねーぞ、バーロー!」と、本を床に叩き付ける向きもあるのでないか。
 というか、ごく一般的な推理小説ファンであるなら、このトリックは、特に「密室トリック」については、「許せない」と感じて当然だからである。
 どんなトリックかって? だからそれは書けないんだってば。
 で、隔靴掻痒な文章になることを承知で、私の感想を書くとすると、これが実に微妙な言い回しになっちゃうのだが、「認めるが弁護はしない」としか言いようがないのだ。
 この密室トリックについての「アンフェア」論争は必然的に起きると思われるが、少なくともアンフェアではない。ただ、これがアンフェアでないことが理解できるのはよほどのミステリマニアでなくては無理で、なんと解説の加藤朋子さんですら、このトリックが“どういう意味を持っているか”気付いてはいないのだ。なぜ、この小説がアメリカを舞台にしなければならなかったのか、その点に触れなきゃ解説にはならんのだがねえ。
 しかし、その“意味”に気付いたからと言って、このトリックが評価できるかというとそうではなくて、やはり「それがどうした」と怒り出す読者も多いに違いないのだ。アンフェアではなくても、これはとてつもなく“インケツ”なトリックだからだ。
 そして、このインケツトリックが更にオビにもあった“最終行”のトリックの伏線になっている。さすがにこいつはインケツな小説だな、と気付いたおかげで、ラストのトリックは見破れたが、畢竟、私は複雑な思いに見舞われた。
 この作者、まっとうなミステリを書く実力はあるのである。それは、トリックの「仕掛け方」を分析すればはっきり証明できる。しかし、まず断定として構わないと思うが――作者は「まっとうなミステリ」などを書くつもりはサラサラないのだ。作者は読者と「知恵比べ」をしようとは思っていない。ただ、読者を「引っ掛けたい」だけなのだ。
 いや、確かに私も、ミステリ読んでて久しぶりにトリックに引っかかりましたよ。でもね、心地よい引っかかり方じゃないんですよ。たとえアンフェアではなくても、こういうインケツを仕掛けねばならないほど、ミステリというジャンル自体が行き詰まっていることを証明しちゃってるんだもんねえ。
 ……でもこういうインケツなトリックなら、私も今まで書いた戯曲の中で使ったことあるんだよなあ。
 いじいじ。

 夜中、そろそろ寝ようか、という頃になって、女房やっと目覚めて来る。今日は仕事がなかったらしい。
 「……あ―っ、私のパンがない!!」
 なんだ、お前のだったか。すまんすまん、外に出してあったから、私へのかと思っちゃったよ。
 ……こりゃ、しばらくはネチネチネチネチと、この件で責めたてられるな。そのことが気がかりで、寝つけずについ夜更かし。……明日ちゃんと起きられるのだろうか。

04月12日(木)
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