ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■このなかから選べ
「そうか、貴様の名は誕生の日に由来しているのか」
 今気付いたとでもいうように砕蜂が言った。脇で書類の数を数えていた大前田は顔を上げてどうでも良いと言わんばかりの顔をする。
「そうすけど、それが、何か」
「いや、めでたい名前だと前々から思っていたのだが、なるほどな」
 砕蜂の体には少しばかり大きめの椅子に浅く座り、やはり少しばかり大きめの執務机で署名をしながら砕蜂はしきりに頷いている。大前田が覗き込むと、その書類は年度ごとに新たに作られる隊の名簿だった。氏名だけではなく個人情報も細かに書かれたその名簿の、大前田の項目を砕蜂は眺めていた。
「全部に目を通さなくてもいいじゃねえすか。新人以外、変更のあったやつなんか少ねえすよ。俺は全く変更ないですしね」
 呆れたようにそう言う大前田を、砕蜂は真っ直ぐに見上げる。
「確かにそうかもしれないが、隊員の個人情報を確認する機会などそうそうあるわけではない。こうして一年に一度、目を通しておくことも必要だろう」
「真面目っすねえ、隊長は」
 手元の書類に眼を戻し、大前田は再び数え始める。砕蜂もまた名簿の確認を再開する。
 その手を止めないままで砕蜂は口を開いた。
「で、祝いには何が欲しいのだ」
 大前田の手から書類が落ちた。
 砕蜂が顔を上げて呆れた顔をするが、大前田はただ呆然として、砕蜂を見ている。砕蜂は床に散らばった書類と大前田の顔を見比べて、溜息をついた。
「何をしているんだ、貴様は。最初から数えなおしではないか」
「……何て、仰ったんです? 今」
「ああ? 貴様の耳はどうなっているんだ。だから、最初から数えなおしではないかと」
「いや、その前」
 書類を持つ格好をしたまま凍り付いたように、大前田はおそるおそるという声で尋ねている。砕蜂は今度は大きめに溜息をついた。
「誕生の祝いには何が欲しいのか、と尋ねたのだが」
「熱でもあるんすか、隊長」
 ひどく真面目な顔をして大前田が言う。砕蜂はあからさまに不機嫌に鼻の頭に皺を寄せた。それを気にもとめずに大前田は続けて、
「それか腹でも壊したんすか。何か悪いもんでも食べましたかね。いやでも昼飯は普段通りに炒飯に塩焼きそばに餃子に春巻きに麻婆豆腐に」
と指おり数え始めた。砕蜂は眉間に皺を寄せる。
「全て一々数え上げることはないだろう。というか、熱もないし腹も壊していないし悪い物も食べてはおらぬわ。失礼な」
「なら、どうしちまったんです、隊長」
 ようやく書類を拾いはじめて、大前田は尋ねた。床に屈み込んで見上げる砕蜂は、冗談を言うような表情でもなく、普段通りの生真面目な顔をしている。大前田が全ての書類を拾って机の上で端を揃えると、砕蜂は口を開いた。
「ふと気付いただけだ。私の誕生の日は菓子の日が近いだけに、貴様には菓子を作らせたり持ってこさせたりしていたが、そういえば貴様の日には何もしておらぬと。返礼はせねばならないだろう」
「義理堅いすねえ、隊長は」
 腕組みをして自分を見上げている砕蜂に、大前田は苦笑する。
「俺の誕生日には、たいてい家族がパーティを開くんで。仕事が立て込んでねえ限りは全休や半休を頂いてますから、ここにはいませんからね。いいんすよ、別に」
 書類を再び数えだし、大前田は呟くように言う。
「隊長からそういう言葉をかけてもらえるだけで十分すよ」
「……うむ」
 その言葉に砕蜂は、何か遠くを見るように窓に眼を向けた。沈黙が降りる。大前田が書類を数える規則正しい音だけがあった。
 ぴん、と大前田が最後の書類を指で弾く。
 砕蜂が大前田を見上げた。
「それでは貴様には数日の休暇をやろう。家族と過ごすがよい」
「いや、それは無理っす」
 大前田は書類を封筒に入れると、その口を閉じる。
「つうか、何言ってるんすか。前も説明したじゃないすか。五月は忙しいんすよ」
 立て板に水の勢いで大前田が仕事の量を説明すると、砕蜂は目をそらした。
「ああ……まあ、聞いたような気もするな」
「前に話してますからね、俺」
「うむ、気にするな」
「つうか気にしてくだせえ」
 遠慮無く大前田が訴える。

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01月14日(月)
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