ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■0929
 副隊長の会議がようやく終わり、乱菊は凝り固まっていた背筋を伸ばした。隣ではやちるが眠そうに目を擦っている。反対側では檜佐木が首をぐるりと回していて、骨の鳴る軽い音がした。
「長かったわねえ」
 乱菊がそう言って笑いかけると、檜佐木もまた苦笑した。
「腹減って仕方ないですよ、俺」
「もう夜だもんねえ……ちょっと、やちる。あんた大丈夫」
 大きな音がして振り返ると、机に額を激突させたやちるがそのままの格好で動かなくなっていた。
「やちるったら」
「……眠い」
 起きあがったやちるの眼は半開きで、乱菊は堪えきれずに吹き出してしまう。普段ならそれに対して、ひどーい、と高い声で抗議するやちるだが、今日は眠気が勝っているのかぐらぐらと上体を揺らしているだけだ。
「あんた、一緒に行くのは無理ね。隊舎まで送っていこうか?」
 乱菊がそう言って手を伸ばすと、やちるは首を横に振った。
「へーき。一緒に行くのは無理そうだけど、帰るのはへーき」
「平気って顔じゃないでしょ」
「乱ちゃんは、今日はダメだよ」
 やちるは頑なに首を横に振り、半眼のまま笑みを浮かべた。
「おめでと、乱ちゃん」
 乱菊は眼を瞬かせた。
「……ありがと」
「うん。だから今日はダメ。このままお祝い行ってね」
「どういう意味よ」
「一緒に行けないから、あたしからはこれあげる」
「だからどういう意味……、あ、ありがとう。やちる」
 やちるの袖から取り出された桃色の可愛らしい小袋を掌にのせられて、乱菊は表情を和らげた。軽いそれからはかさかさと音がして、小さい粒状のものが入っているようだった。おそらくは金平糖だろう。やちるがどれくらい金平糖を好きか知っている乱菊は、小袋を両手で包み込むとそっと頬に寄せる。
「嬉しいわ」
「よかった」
 そう言って微笑むやちるはもう限界のようで、上体の揺れは増している。そのとき、扉から、
「うちの小さい副隊長はまだいるっすか」
と一角の声がした。
「あら、一角と弓親」
 ちょうどよかった、と乱菊は振り返って呼び寄せる。二人は近づいてくると、やっぱり、と呆れたように揺れているやちるを抱え上げた。
「会議中は寝てらっしゃらないでしょうね」
「ねてなーい。つるりんじゃないもん。ねー、乱ちゃん」
「俺は寝ねぇっつうのこのドチビ」
「はいはいはいはい。いいからもう帰りますよ。ほら一角も、背負うんじゃ落ちるから抱えて」
 一角がやちるを片手で抱えると、弓親は乱菊が差し出した会議の資料を受け取り、懐から和紙の細長い包みを取り出した。
「おめでとうございます……この間の、約束通りに」
 そう言って綺麗に微笑む弓親に、乱菊は最初きょとんとし、次に華やかな笑みを浮かべた。
「ありがと。嬉しいわ」
「多分、似合うと思うけど……まあ、僕の趣味はいいからね」
「そうね」
 包みを受け取り、乱菊は笑って頷いた。弓親は一礼する。
「では、失礼」
「じゃ、俺達はこれで」
 出ていく二人に射場が近づいて、一言二言、言葉を交わしている。一角の肩にもたれていたやちるは、片目を開けて、乱菊に手を振った。乱菊は微笑んで手を振り返す。
 その隣で一部始終を眺めていた檜佐木が乱菊を振り返った。
「乱菊さん、何かめでたいことでもあったんですか」
「あ、言ってなかったっけ。今日、あたしの誕生日なのよ」
「そうなんすか!」
 檜佐木が痛恨のミス、とでもいうように顔をしかめた。
「知ってたら、金残しといたのに」
「あんた、また金欠なのね」
 乱菊が呆れた目を向けると、檜佐木はひでえ、と呟くが言い返さない。
「大前田に奢ってもらってるんでしょ」
「……今夜もそうお願いしてますよどーせ」
「大前田も気前良いわねえ」
 向こうの席で吉良と話している大前田に視線をちらりと向け、乱菊が笑った。檜佐木は少しふて腐れたような顔をしていたが、ぼそりと、
「……おめでとうございます。俺だって、祝いたいんですよ」
と呟いた。乱菊は少しばかり目を見張り、優しく言う。
「その言葉だけで嬉しいものよ。ありがと」
 檜佐木は微かに笑みを浮かべた。

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01月12日(土)
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