ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■0910


 その日の朝、吉良は気合いを入れて執務室に入った。
 カレンダーはきちんとチェックしていたし、リサーチもしておいた。初年や昨年のような失敗はしないと吉良は心に誓っていたと言っても過言ではない。
「おはようございます、市丸隊長」
 ギンが執務室に入るなり、吉良は威勢良く立ち上がりかくっとお辞儀をした。
「おはよお、イヅル。何や、今朝は元気ええねえ」
 朝から気怠げな声で返事をするギンに、イヅルは紙包みを差し出す。
「お誕生日おめでとうございます」
「……ああ、そうやったねえ……今年は覚えていてくれはったんや」
 きょとんとした後、にやりと笑ってギンが言い、吉良は俯いた。
「嫌味なこと仰らないでください」
 吉良は昨年の今日を思い出す。当時、仕事が立て込んでいて一月ほどずっと忙しく、吉良はギンの誕生日をきれいさっぱり失念していた。三席から聞かされて次の日慌ててギンに謝罪すると、ギンはへらりと笑って、まあ別にボクどうでもええんやし、謝らんといてな、と言った。
 自分の誕生日そのものに無関心であるらしいギンは、そんなことには拘らないようだった。しかし、どうでもいい、と言い切るくせに他人から祝われるギンは、珍しく本心から喜んでいるように見えた。副官になって最初の年、そんなギンを見て吉良は自分も祝っていこうと決めていた。滅多に本心を窺わせない上司の、かすかな本心の発露を見たかった。
「嫌味やのうて、ほんま、ありがたいなあ思うて」
 ギンは紙包みを手にして、吉良がほとんど見たことのない柔らかい笑みをわずかに口元に浮かべる。それを見て吉良はほっと息を付いた。
「何やの、これ」
「花菱屋の干菓子です。先日、隊長が覗いていらしたと雛森君が教えてくれたので、一緒に贈らせて頂きました」
「ああ、そらよかったなあ。ちょいと進展あったんか」
「……何の進展ですか」
「いや別に何でもあらへんよ」
 窓脇の自分の席について、ギンは紙包みを開く。そして嬉しげに、
「雛森ちゃんにもお礼しぃひんとなあ」
と言った。




 窓から小さな体が飛び込んできたとき、吉良はちょうど窓に背を向けていた。気配に振り向くと同時に肩に片足が乗せられて、そのまま吉良の肩は踏み切り台にされていた。
「うわっ、く、草鹿さん」
「やっほー、元気?」
 吉良の肩から跳び上がると空中で一回転し、やちるはソファにくつろいだ格好で書類に捺印していたギンの前に着地する。ギンは驚きもせずにへらりと笑っていた。
「誕生日おめでと、ギンちゃん。これあげるよ」
「おおきになあ、やちるちゃん」
 手を出すように促され、ギンが片手を差し出すとその掌にやちるはざらざらと金平糖を転がす。色とりどりの小さな星のような菓子が、ギンの掌を満たした。
「やちるちゃん、これ、ええの?」
「うん」
 やちるが満面に笑みをたたえ、頷く。ギンが空いている手でやちるの頭を撫でた。おおきに、ともう一度ギンは呟き、微笑む。
 吉良はギンの掌を見て、休憩時間が唐突にやってきたことを理解した。
「草鹿さん、お茶でも一緒にどう?」
 吉良の問いに、やちるは振り返ると首を横に振った。
「ありがと。でもちょっと忙しいから無理」
「何かあるの?」
「女性死神協会のみんなと昼休み会議があるから、もう行かなきゃ」
「それ、単にみんなでお昼食べるだけやろ」
「うん。勇ちゃんがお弁当持ってきてくれるんだよ」
「そら上手そうやなあ」
 勇音の優しげな微笑みを思い出し、吉良も無言で頷く。背は高いが、非常に女性らしい人だと吉良は認識していた。
 やちるは窓枠に飛び乗ると、こちらを振り返って笑った。
「でもホントに忙しいんだよ。ひっつん達のところの壁壊しちゃったから、ご飯食べたら一緒に直すの」
「日番谷はん、怒ってたやろ」
「うん、乱ちゃんは笑ってたけど、ひっつんは眉間の皺が増えてた」
 じゃあね、という声だけを残し、やちるの姿が消えた。




 珍しくはかどる仕事に、吉良は感動すら覚えていた。

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01月11日(金)
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