ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■17 生け贄
吉良は二番隊の執務室にいた。
隣同士ということもあり、二番隊と三番隊は合同で何かをすることも多い。今回、双方の間にある古くなった建物の修復を合同で行うため、その調整の話し合いのために昼過ぎから吉良はここに来ていた。
大前田は忙しそうで、席官が入れ替わり立ち替わり指示を仰ぎに執務室に出入りした。その度に大前田は面倒くせえと呟きつつも入り口まで行き、何事かを告げてまた戻ってくる。
「今日は砕蜂隊長はいらっしゃらないんですか」
吉良がそう尋ねると、大前田は億劫そうに頷く。
「別の仕事が入っているんだとよ。昨晩からいねえ」
「ならその間はずっと大前田さんが取り仕切るんですか」
「仕方ねえからな。全く、夕べは風呂入りに戻っただけで寝てねえっつうの」
そう言って大前田は首を鳴らして、再び書類に目を落とす。その目の下に僅かに隈ができていて、吉良は眉を八の字にした。基本的に副隊長は雑務で忙しいものだが、大前田に隈ができていることは多い。
そのとき、三席が扉をノックすることなく飛び込んできた。
「副隊長っ、虚が出ました。十三斑から救援要請ですっ」
「ちっ、面倒くせえな」
吐き捨てるように呟き、大前田は立ち上がった。
「三席、おめえは吉良と修復について話し合え。吉良、俺が行くしかねえから、悪いが大まかなことはこいつと決めてくれ」
「え、私ですか」
狼狽える三席を大前田が見やった。
「仕方ねえだろ。隊長も俺もいなけりゃ、おめえだろ。吉良、決定事項には従うから、好きに決めてくれ。悪ぃな」
「いえ、当然です。こちらは気になさらず、お急ぎ下さい」
「すまねぇ。煎餅は好きに食っていいぞ」
斬魄刀を手に取り、大前田が三席を押し退けて執務室から出ていく。向こうの席官の部屋に入ったのか、残りの席官に指示を飛ばす声がここまで届いた。
吉良は狼狽えたままの三席に、とりあえず前に座るように言うと、三席は緊張しているのか背筋をおかしいくらいに真っ直ぐにして腰掛けた。
「修復のことは聞いてる?」
「はい」
「なら大丈夫だね。大まかに決めてしまって、細かいことは大前田さんが帰ってきたら話すから、よろしく頼むよ」
「こちらこそ、当方の都合で申し訳ありません。よろしくお願い致します」
頭を下げる三席に吉良は微笑んだ。二番隊は、大前田以外は丁寧でおとなしい隊員が多い。ある種、隊長と副隊長が強力に個性的だから必然的にそうなるのかもしれないと吉良は思う。
大前田がいなくなったせいか気が抜けて、吉良はふと気がついた。
「そういえば、珍しく花が飾られているね」
ソファの横にある脇机には、普段は玩具のような飾りが置かれている。それも砕蜂と大前田の印象からは程遠いと思っていたけれど、今日はそこに一輪の花が飾られていた。
三席は、ああと顔を上げて少し笑った。
「珍しいですよ。隊長があちらの任務に行かれたときには副隊長が花を飾られるのですけど、普段、次の日にはまた飾りに戻っているので、持ち越してあるのは滅多にないです」
「え、大前田さんが飾ってるの」
驚いて反射的にそう尋ねると、三席は頷いた。
「はい。貴族の嗜みっておっしゃって」
「……ああ納得」
吉良は普段の大前田を思いだして頷いた。少し複雑な顔をしていたのだろう、三席がくすくすと笑う。
「でも、副隊長がそうなさるようになったのは、砕蜂隊長になられてからですよ。多分、気を遣われて」
「あ、そうなんだ」
「普段、隊長と副隊長って、朗らかとか仲良しとか楽しげとかの言葉が似合わない無駄のない会話しかなさらないんですけど、副隊長はあれでとても細やかな方ですし、その気配りを砕蜂隊長もおわかりのようで」
「へえ……」
吉良はいつか見た光景を思い出す。廊下で、何か言った大前田が砕蜂に顎を蹴り上げられて、倒れかけたその体に肘鉄を食らわされていた。
「よく蹴られてるから仲悪いのかと思っていたよ」
吉良がしみじみと呟くと三席は真顔で答えた。
「仲が良いとは言えないと思います」
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11月17日(土)
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