ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■18 毒娘
「さて、あとは微調整だけだネ」
手拭いで水を拭い、マユリは阿近を振り返った。
「阿近、お前にそれを任せるヨ。私は少し十二番隊の仕事があるからネ」
「俺ですか」
愉快とは言えない表情を常に浮かべている阿近は、ことさらに顔をしかめた。持っている全ての技術を投入したと言っても過言ではない作品を、いくら側近とはいえマユリが他人にそれを任せるとは考えられなかったからだ。
しかし、マユリは事も無げに続ける。
「知識の入力は義魂段階で既に済ませてあるし、体術については私が教えるヨ。ただ、先に義魂と義骸の連携の訓練をしなければならないダロウ。十二番隊の仕事は興味はないが仕方ないのダヨ。一週間。それで人としての基本動作ができるようにしておけ」
「……分かりました」
「手伝いが必要なら女性を使うようにするのダヨ。ネムに女性としての教育をする意味でも、その方がいいだろう。他の人間は使うんじゃないヨ。触れされることも、緊急時以外はさせるんじゃない」
「分かりました」
技術局員の女性を思い浮かべ、阿近は微妙な表情をした。女性としての教育など、できる人間がこの場にいるのだろうか。
「ネム。お前は私の娘になるのダヨ。恥ずかしくないように、きちんと学んでおくように」
「はい、分かりました。マユリ様」
マユリは急いた様子で術式の部屋を出ていった。
「いってらっしゃいませ、マユリ様」
隣で透明な声がする。阿近は横を見て、そして溜息をついた。
手術台に腰を掛け、深々と礼をした女性が顔を上げた。真っ直ぐで艶やかな黒髪が覆っていた顔が見える。毛細血管まで透けてしまいそうな白肌。黒目の大きな眼は長い睫に縁取られている。鼻筋の通った小さな鼻。小さな、柔らかそうな赤い唇。それらパーツ一つ一つが美しく、それらが絶妙な配置で小顔に収まっていた。
その顔に浮かぶのは無表情。
ネムはただそこに在った。
「そういうわけで幼稚園の始まりってな感じなわけだ」
「具体的にはどうすればいいんですか」
局の一室で技術局員の紅一点である少女に尋ねられ、阿近は一枚の紙を取り出した。夕べ、ネムの様子を見ながら教育として必要と考えられることを書き出していったリストだった。
「一.話し方(1)大きな声(2)囁き声。二.動作(1)歩く(2)走る(3)転ぶ……なぜ転ぶ必要が」
「転んだときにどう対処するのかを学ばないとだめだろ。ガキは転ぶと顔から突っ込んだりするからな」
「詳しいですね。ええと、(4)スキップ……必要かな? これ。(5)登る(6)降りる。ああ他いろいろとありますね。まあいいや。三.食事動作(1)箸の使い方(2)お椀の持ち方(3)咀嚼(4)飲み込む……なんだかお母さんみたいですね、阿近さん」
「うるせえ」
リストを読み上げては突っ込む少女と、それに一々答えている阿近を、傍に座っているネムはじっと眺めていた。無機質な室内に、甲高い少女の声が響いている。
「…………やっと最後だ。四十五.表情(1)笑う(2)怒る(3)泣く(4)悩む(5)考える(6)困る……表情まで教えるんですか」
「義骸か義魂、どちらかに経験があったなら、そんな必要は全くないんだがな」
阿近は腕を組んで億劫そうに言う。
「全く未経験の場合、いくら義魂にプログラミングしてあったとしても一通り経験することが必要なんだよ。知識はあるし、すぐに覚えるだろう。まあとりあえず、知識のある赤ん坊を相手にしていると考えろ。この一週間は、動きは大きく、表情は豊かに、わかりやすく動け。基本的にはお前の動きを手本にするんだからな」
「え、あたしですか」
「俺を手本にしてどうする。俺の表情なんぞを真似してみろ。美人が勿体ないじゃねえか」
「あたし、美人っていうわけじゃないんですけど」
「美人のつもりでいろ」
「あたし、握り箸なんですけど」
「矯正しろ……いい、俺がする。俺が教える方が早い」
阿近がネムを振り向いた。ネムは微動だにせず、ただ瞬きだけが人形ではない証としてあった。阿近は一瞬だけ言葉を失い、そしてネムの前で屈み込む。ネムを見上げる格好になって、そうするとネムはゆっくりと俯いた。
「ネムさん」
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11月18日(日)
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