ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■07 侵入者
「……何しに来たのよ」
にべもない口調で乱菊に言われ、ギンはわざとらしく肩を落として見せる。
「見舞い以外に何あるん、ここ」
「なら、入口から入ってきなさいよ」
ここは四番隊救護施設の入院棟最上階にある個室である。その窓から昼間だというのに当然のように入り、ギンは乱菊が横になる寝台に歩み寄る。乱菊が聞こえるように溜息をつき、指で寝台の下を示した。質素な丸椅子が置いてある。へらりと笑い、ギンはそれを引き出して乱菊の傍に座る。乱菊が上半身を起こす。
「最上階で個室て聞いたから、えらい贅沢なんか思うたのに……普通やねえ」
見回してギンは呟いた。白い壁に囲まれた部屋には何の装飾もない。寝台、椅子、身の回りの物を入れる棚。伝令映像絡繰箱すらなく、最上階にあるせいで階下の喧騒が聞こえないここは、とても静かだ。
「死神しか入院しないんだし、贅沢に作っても仕方ないわよ……あたしも最初はそう思ってうきうきしたんだけど。単に、六人部屋とかにすると他の入院患者が恐縮しちゃって治療に障りがあるから、個室にしたんだって」
残念そうに話す乱菊は、昔のままの口調で昔のままに唇を少し尖らせる。久しぶりのその姿に、その口調に、ギンは柔らかに笑う。
「副隊長やもんなあ」
「副隊長だもんねえ」
顔を見合わせて二人で笑う。そんなことすら、久しぶりだった。
「ああ、そうや、これ見舞いの品やねん」
膝の上に置いたままにしていた箱を乱菊に渡す。包装紙に描かれた屋号に目をやり、嬉しそうに乱菊が笑う。
「ありがとう。山田屋の焼き菓子ね。珍しいじゃない、洋菓子を買うなんて」
「ボクやのうてイヅルが買うてきてた」
「……吉良はどうしたの」
「ずっと忙しそうやから、ならボク行くわ言うて」
「机の上にあったこの箱を手にとって制止する吉良を振り切って窓から出てきたわけね」
「見てきたように言うなあ」
「そうでしょ?」
「そうです」
へらりと笑って答えるギンに、乱菊は溜息で返す。
「かわいそうな吉良」
「こうでもしぃひんと、ボク来られないやないの」
笑いながら、ギンは乱菊の顔を覗き込む。寝台に手をついて、体を寄せる。乱菊は困ったように笑った。
「そうね。隊長は普通、他隊の副隊長の見舞いには来ないわね」
「元気そうでよかったんやけど、最初、イヅルの報告に驚いたんやぞ。入院やなんて」
ギンが乱菊の頬に片手を伸ばすと、掌に軽く押し付けるようにして乱菊が顔を寄せて目を閉じる。滑らかな頬は少しひやりとしていて、久しぶりの柔らかさにもかかわらず、ギンは眉を寄せる。
「まだ本調子やないね」
「んー、もう少し、かな」
長い睫毛の影が白い肌に落ちている。親指でそれをなぞる様に撫でる。乱菊が目を開ける。青い目がギンを映す。
「折れた骨はもうくっついているんだけど、それを治すのに使った霊力がまだ戻ってない感じ。でも、大事をとって入院しなさいって言われただけよ」
「ちょい厳しい任務とは聞いとったけど」
「誰一人、死ななかったんだもの。上出来よ」
そう言って笑う乱菊に、ギンは小さく息を吐いた。
「乱菊が庇うているからやないの」
「副隊長だもの……だからこの怪我も当然なのよ。あたしだから、これくらいの怪我なのよ」
頬に当てている手に、乱菊の手が添えられる。気遣わしげに言う乱菊に、ギンは少しだけ苛立ちを感じて、それが乱菊に伝わっていることにも苛立つ。青い眼から目をそらし、白い布団を見ながら呟く。
「……気ぃつけなあかんよ」
「うん。ごめん」
静かな、小さな声で乱菊が答える。乱菊の手が、ギンの手を頬に押し付ける。見ると、目を閉じて乱菊はギンの手に頬を寄せている。自分の手が、やけに大きく感じて、ギンはああそうやと思う。幼いころとは違う、大きくなった自分の手。乱菊を包みこんで隠してしまえるほど大きくなったというのに、ギンにはもうそれはできない。ただこうして隠れて忍び込んで、ほんの少しだけ会話することしかできない。
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11月07日(水)
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