ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■雲の向こうの遠雷が呟きさえも掻き消すから 5
渡り廊下を五番隊隊舎に向かってギンは藍染と東仙と共にゆっくりと歩いていた。緊急の隊首会が終わり、他の隊長は控えていた副官とそれぞれの隊舎へ既に戻っている。三人はそれぞれの副官を先に帰らせていた。雛森は傍に控えていたい様子だったが、藍染は、
「合同訓練のことを具体的に詰めておきたいからね、三人でお茶でもしながら話し合いたいから、準備をしておいてくれるかな……そうだな、せっかく晴れているし、梔子が香るようになったから二の庭がいいな」
と微笑んだ。
「忙しい君にそこまでさせてしまって申し訳ないけれど、君のいれたお茶はとても美味しいんだ。いいかな? 頼んだよ、雛森君」
雛森は頬を染めて返事をすると、自動人形のように道化じみた、愛らしい動作で一礼し、くるりと背を向けて駆けていった。その小さな背をギンは薄く笑って見送った。可愛らしい、そう評する以外に何を思えるだろう。
雛森を先にやってから藍染はずっと黙り込んでいる。何やら考えているのか、視線は遠く一点に向けられて、ただ機械的に足を進めていた。
ギンも東仙も黙ってそれに付き従っている。この三人で、三人だけで話すことといったら、数百年前から一つしかない。ギンはどことなく疲れを感じて空を見上げた。屋根の向こうに広がる空は、少しずつ青を濃くしている。雲がくっきりと白く浮かんでいる。眩しさに手をかざし、ギンは退屈な溜息をついた。
そのとき、藍染が立ち止まった。
ギンも東仙も何も言わずに立ち止まる。目の前の藍染は肩を細かく震わせている。二人が顔を見合わせたところで、藍染は再び歩き出した。すぐ横の、中庭への階段を音もなく下りていき、初夏の陽射しがあふれる庭に入っていく。ギンは東仙ともう一度顔を見合わせ、藍染に続いて庭に下りていった。敷き詰められた白い小石がきゅと足の下で音を立てる。
藍染は色とりどりの松葉牡丹が植わった花壇の前で立ち止まった。そこで初めて藍染は俯いて笑い出した。ギンは、先程の藍染の肩の震えが笑いを堪えていたことによることを知った。藍染はくつくつと低く小さく笑っている。口元に軽く手を添えているが、押さえきれない笑い声が漏れて響いた。
「そうか……っ、そういうことだったのか…………」
聞き取れないくらいに声を抑え、藍染は呟いている。ギンはちらりと東仙を見やる。東仙もまた、ギンの気配をみようと顔を向けた。そして同時に藍染の方を向く。藍染はまだ笑っている。
「ふ……っ、ふふ、ははは………」
藍染はいつも微笑んでいるが、声を出して笑うことは滅多にない。ここから離れた廊下を歩く死神がこちらに視線を向けるのをギンは感じていた。しかしその視線はすぐに外された。日当たりの良い花壇の前で、花を眺めながら談笑する隊長達にしか見えないだろうとギンは思う。
「やってくれる……」
藍染はようやく顔を上げた。その横顔のその眼を見てギンは笑みを消した。
暗い、陽の光も届かない仄暗い眼は、全く笑っていなかった。
「……やってくれるじゃないか…………浦原……!」
ギンも東仙も動きを止めた。
この百年、口にすることを誰もが憚った名を、藍染は小さく、二人にしか聞こえないほどに小さく吐き捨てた。そうして、ゆっくりと完璧に近く穏やかな笑みを浮かべて横に控えていた二人を振り返る。
「ふふ……すまなかったね。ちょっと考えをまとめていたんだ。ああ、ここから先は僕のところで話そうか。ここで話していても怪しまれることはないだろうが、まあ、せっかく密談をするのに、ここではそんな雰囲気も出ないからね」
言葉が終わると同時に藍染の姿は風に掻き消されたかのように目の前から消える。しかし東仙もギンもまた、姿を追って同じ方向に顔を向けた。ギンはわざとらしく溜息をつく。
「いややなあ、藍染さんは。自分一人で納得しはって、さっさと行きはったわ」
その言葉に東仙は小さく笑う。
「何か、深いお考えがあるのだろう。さあ、市丸。私達も向かおう。そろそろ雛森さんもお茶を用意して待っている頃だろうしね」
「東仙さんは人がええから」
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07月12日(水)
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