ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■雲の向こうの遠雷が呟きさえも掻き消すから 3-2
隊首会から戻ってきた日番谷が最初に口にしたのは、ソファに転がって書類に決済印を押している乱菊への説教でもなく、机の上で半分以上減っている饅頭への文句でもなく、
「朽木ルキアが行方不明だそうだ。知っていたか?」
という言葉だった。
乱菊は顔を上げて背もたれ越しに日番谷に振り向くと、表情を変えずに、
「いいえ。いつから行方不明なんですか」
と聞き返した。日番谷は眉間の皺をそのままに、乱菊の向かいに座るとじろりと乱菊に視線を向ける。
「虎徹の妹あたりから聞いてたんじゃねえのか」
「……清音ではありませんね。そして詳細については全く知りません。隊長は、浮竹隊長からですか」
完璧に微笑んで乱菊がしれっと答えると、日番谷は横を向いて、舌を鳴らした。
「ちっ……やっぱり知ってたんじゃねえか。ああ、そうだ。隊首会のあとに浮竹から聞いた。とりあえず」
「お茶ですね。ちょっとお待ち下さい」
乱菊はそう言って微笑み、自分の湯飲みを手にとって給湯室へと向かった。背後で日番谷が再び小さく舌を鳴らすのが聞こえて、乱菊は笑う顔を見られないように後ろ手で開けた扉を閉めた。
広さ二畳ほどの給湯室で、乱菊は薬缶に水を入れて火に掛ける。そして急須の中に残っていた出涸らしの茶葉を綺麗に取り出して、それは脇に置いてある紙を敷いた浅いザルの上に広げた。そして急須を軽くゆすぎ、棚に置かれていた日番谷の湯飲みも軽くゆすぐ。自分の湯飲みは簡単に洗った。干してある布巾でそれぞれの水滴を拭い、そこで乱菊は初めてほうと息をついた。小さな音を立て始めた薬缶に目をやり、乱菊はもう一度、息をつく。
朽木ルキアのことが隊長格にまで知られるようになった。このことに乱菊は何か得体の知れない不安を感じている。それはあまりに漠然としていて、乱菊は、自分が不安を感じる理由が判らない。虫の報せ、というものは要するに経験からくるものであることが殆どだ。それなのに、乱菊はこの不安がどこからくるものなのか、全く掴めなかった。
考えられることとすれば、朽木ルキアが自ら行方不明になりそうな死神に見えない、ということくらいだろうか。乱菊は俯き加減で小さく笑うルキアの姿を思い出す。乱菊はルキアと深い関わりはない。顔を合わせたのも言葉を交わしたのも、数えるほどしかなかった。しかし、その中での印象ははっきりとしていて、朽木ルキアという死神は不器用なほどに真面目で、自分に厳しく、少しばかり自己を卑下しやすい傾向にある、と乱菊は見ていた。ああいった者が行方不明になるとしたら、何かに巻き込まれたとしか考えられない。その何か、を自分は不安に思っているのだろうか、と乱菊は考えて、そこで薬缶が湯の沸いたことを喧しく報せ始めた。思考を途中で打ち切り、乱菊は火を止めた。
湯飲みを乗せた盆を持って執務室に戻ると、日番谷は乱菊が寝転がっていたソファに腰掛けて書類を手にしていた。かなりの枚数が処理済みの箱に入れられている。日番谷は眼だけを乱菊に向けて、
「おう」
とだけ言った。乱菊は笑みだけで答え、日番谷の前に湯飲みを置く。柔らかい湯気と茶の香りが揺れて昇った。乱菊は自分の分を机に置いて、向かいの一人がけのソファに座る。
「で、だな」
日番谷が口を開いた。眼は伏せられて、書類の文字を追っている。乱菊は膝に両手を置いた。
「はい」
「浮竹から頼まれた。朽木ルキアの担当地区に隣接した十番隊の担当地区の奴に、それとなく情報を集めるように言ってくれ、ってよ」
「ということは、朽木ルキアの行方不明は確実で、しかしそれはまだ公にはされていない、ということですね」
乱菊の言葉に、日番谷は書類から目を上げると小さく頷く。そして乱暴に書類を机に置いた。
「朽木ルキアの居所が掴めないんだそうだ」
日番谷の声は普段よりわずかに低められていて、乱菊は眉をひそめた。
「あたしが聞いたのは、朽木と連絡がとれていないということだけだったんですけど……現世での死神の居所が掴めないだなんて、よほど酷い怪我か、体調を崩したことで霊圧が低くなっているくらいしか考えられないじゃないですか」
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07月10日(月)
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