ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■絶対的な響きをもって鐘の音は時を告げた 8
広い試験会場で、乱菊はずっと入り口の方を見ていた。
試験開始直前に乱菊は会場に滑り込んだ。門番と知り合いだったのか、乱菊を送ってくれた……志波空鶴と名乗った女は帰りかけていた受付の死神を門番に呼び戻させ、乱菊の受付を強引にさせた。
「いいから早く行け! 走れ!」
「ありがとう!」
案内に走る死神の後を追いながら、乱菊は振り返ってお礼を叫んだ。空鶴は門番と並んで手を振っていた。乱菊はその向こうにギンの影を探す。遅刻しても入れるだろうか。立ち止まることもできず、乱菊は会場に駆け込んだのだった。
実技試験が終わり、それに合格した人間が残って、筆記試験が始まろうとしたときだった。
部屋の入り口から死神が一人入ってきて試験官に何か告げたかと思うと、続いて入り口に白い羽織の人影が見えた。その人の髪の焦げ茶色が揺れて、試験官が慌てて入り口に走る。試験会場が少しざわめいた。
羽織の人と試験官が何か話している。羽織の人はよく見えないけれど、試験官が頭を下げていることから考えると偉い人なのだろうか。乱菊の横で、明らかに上等の着物をきた少年が「隊長だ」と呟くのが聞こえた。その周囲へ囁きが波のように広がっていく。
白い羽織が消え、入れ替わるように乱菊が待ち望んでいた姿が現れた。
一斉に会場がどよめいたが、乱菊は立ち上がりそうになるのを堪えるので精一杯だった。ギンだ。やっとギンが来た。入れたんだ。胸の前で手を組み、乱菊は遠くのギンを見つめる。銀髪にも着物にも血がついているけど、歩き方は普通だから怪我はしていないようだ。ギンの無事を確認して、乱菊は息をつく。ほっとして、力が抜けた。まだ試験が残っているのではなかったら、乱菊は机に突っ伏していただろう。
ギンは前で試験官と話している。それを眺めていて、人心地ついて、ギンの様子がおかしいことに乱菊は気づいた。ギンは笑っているけれど、その笑みはいつも乱菊に向けるものではなかった。ギンが張り付いたような、隙のないそれを浮かべるときは、信用のおけない人間と話すときだった。初対面だからかしら、と乱菊は首を傾げたが、胸の奥でそれは違うと声がする。そういえばギンは部屋に入ってきたときから周囲を一切見渡さない。乱菊を探そうともしないその様子に、乱菊は不安になった。
会場のざわめきは止まない。周囲の囁きは動揺とわずかな怖れを伴っていることに、やっと乱菊は気づいた。何をしたらあんな血塗れになるんだ、と後ろの方で誰かが囁いた。なんだか怖い、と誰かが呟いた。なんで血だらけなのに笑ってるんだ、と横の少年が言った。乱菊は心の中で首を振る。そんな言葉を遮ってしまいたかったが、何かを言えるような状況でもなかった。
「筆記試験の開始を少々お待ち下さい。彼の実技試験を行いますので……お静かに」
試験官が会場に告げると、更にざわめきが起きた。遅れてきたのに試験が受けられるのかよ、と誰かが野次った。ギンは飄々とした笑みを絶やさず、何の反応もせずに立っている。試験官から何事か告げられて、ギンが足を肩幅に開いた。霊圧解放の試験。会場中が注目し、その好奇の目に乱菊は嫌な感じを受けた。小さな野次が連鎖して発せられた。
けれど、そこまでだった。
ギンの霊圧が解放された途端、最前列の人間が椅子から崩れ落ちた。試験官はさすがに身動ぎもしなかったが、目が見開かれている。誰もが黙り、霊圧で空気が唸る音だけが部屋を揺らした。
乱菊は、これがギンの全力ではないことを知っていたが、その普段とはあまりに異なる肌触りに顔を顰めた。これはまるで威嚇だ。
全く表情を変えないまま、ギンが霊圧を抑えて、右手に霊力を集め始めた。その捩れるような音に、乱菊は更に顔を顰める。普段より、少しだけ、雑だ。それでもその音と集められる霊力の大きさに、会場は静まりかえる。
「……これ、どないすればええの。どっかぶつけるんか」
ギンが淡々と試験官に訊いた。試験官は、一瞬だけ反応が遅れたが、
「いや、これで終了にします。これ以上は必要ありません」
と告げた。そうだろうと乱菊は思う。試験課題はもっとあったけれど、全てを行えば、前の方にいる受験生が気を失ってしまうだろう。
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04月16日(日)
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