ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■雲の向こうの遠雷が呟きさえも掻き消すから 5
藍染は一言、呟いて笑った。ギンはその笑みを無表情ともとれる笑顔で眺めていた。東仙は表情を崩さず、静かに藍染の独白を聞いている。
「探し始めて百数十年かかった。浦原が崩玉を作り、それを壊したと言ったときから百数十年、ようやく、その直後に瀞霊廷から姿を消した怪しい人物を見つけたよ。浦原の身内ではなかった……夜一の方をもっと丹念に探すべきだったね」
ギンは無表情の笑みを崩さない。ただそっと湯飲みを手に取り、小さな音をたてて温い茶をすすった。
藍染はゆっくりと話している。
「彼女の縁者はあまりに数が多いうえに、なにしろ四大貴族の一つだからね。貴族社会の厚い壁に遮られてなかなか情報を手に入れられなかったよ。それに、世界を揺るがす物に、あんな下働きが関わっていようとはね。いいかい? まず、崩玉を破壊したと浦原が僕に話す直前、彼女の家で庭師だった、当時はすでに引退していた老夫婦が姿を消している。あのタイミングで姿を消しているのは彼らの他にも数十名いたんだけどね、最後まで足取りが掴めなかったのは彼らだけだった。で、僕は彼らの行方を捜しに捜したよ。こういうとき、表だって動きにくい隊長職は面倒だね。まあ、そうしてようやく、その夫婦が戌吊で少女を育てていたという情報を手に入れた。彼らは相当ひっそりと隠れるようにして暮らしていたらしい。その少女の名までは突き止められなかったよ。ただ、噂では夫婦の死後、同じような境遇の少年達と暮らすようになり、やがて戌吊を出ていったらしい」
藍染はようやく柔らかな笑みを浮かべると、そこで言葉を切って二人の様子を見るように視線を向けた。ギンは何も言わず、ただ頷いてみせる。東仙もまた、同じようにして先を促した。藍染は満足げに口を開いた。
「彼女はなかなか目立つ存在だったらしい。あのような場所では珍しい、品のある言葉遣いに気の強さ。少年達の中心人物でもあったようだ。外見的にも特徴があったし、連れの少年もまた目立っていたから、住人達は覚えていた」
風が吹いた。ギンが名を知らない植物の葉が擦れてさざめく。梔子の香りがゆるりと流れた。ギンは藍染から眼をそらすと、空を見上げた。青い空が何事もなかったかのようにそこにあり、雲がゆったりと流れている。ただ隊舎の向こう、西の空に色の暗い雲が広がっていた。ギンは眼を細めた。
藍染が横目でギンを見て、また視線を見渡すように流す。
「少年は、背が高く、赤い髪。気の強そうなつり目。そして少女は背が小さく、体は細い。硬そうな黒髪で、瞳は大きく、つり目。戌吊から出ていったのが今から五十年くらい前。彼らが野垂れ死んではおらず、死神になれていたと考えると、赤い髪の少年の名は、おそらく阿散井恋次。そして少女の名は……外見的な特徴は東仙にはわからないだろうが、ギン、君はもう思い浮かべているだろう?」
そう言って藍染はギンを真正面から見て、微笑んだ。ギンは面倒だというようにわざとらしい溜息をつくと、
「朽木はんところの、ルキアちゃん、……ですやろなあ」
と言って貼り付けた笑みをみせた。藍染は満足げに頷く。
「そう、朽木ルキアだ。彼女は、いくら朽木家の養女になったとはいえ、流魂街の出身だ。なのに不思議なほどの品の良さだったが、それも夜一の家で働いていた者が育てたというなら納得がいく。彼女の記録を見ると、現世で死んでこちらに送られた際、戌吊に送られたことは確かなようだが、ならば何故、戌吊という非常に離れた場所で、四楓院家の使用人に育てられていたのだろうね?」
藍染の低い声を聞きながら、ギンはルキアの姿を思い出していた。ギンの見知っている朽木ルキアは、どこか一歩退いた、何かに怯えているような、何かを諦めているような、そんな印象の死神だった。ギンの記憶の中でルキアは、いつも兄の顔色を窺うように見上げる。そして、何かを諦めるように、言葉を飲み込むように俯くのだ。また、ギンは百年以上前に垣間見たルキアの姿も思い浮かべた。その記憶は曖昧になっていたが、幼いルキアは何の疑いもなく戸惑いもなく、老夫婦に向かって笑っていた。その身におそらく崩玉を隠しながらも、当時のルキアは幸福そうに、ギンには見えた。
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07月12日(水)
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