ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■絶対的な響きをもって鐘の音は時を告げた 2-1.5
多分そのとき空は色を失うだろうけど。
自分の息は止まるだろうけど。
まだ青い空の下、びしょぬれのままギンは歩いて住処へと戻った。かなり遠いところまでいたようで、夜中歩いて帰り着いたのは次の日の朝だった。着物はすっかり乾いていたが、ギンはよれよれになっていた。いくら洗っても血の染みも酷い臭いも取れず、乱菊がまだいてくれはっても、もしかしたらボクこれで嫌われるんやなかろか、とまでギンは考えた。
しかし、そんなことはなかった。
かなり遠くの木立の隙間に小屋が見えたと思ったら、そこから乱菊が飛び出してきたのが見えた。今度こそいないかもしれないと覚悟をしていたギンは、全身の力が抜けて座り込んだ。これまで見たことない速さで走ってきた乱菊は、そんなギンを見て駆け寄りながら、
「あんたどうしてそうバカが治らないのっ」
と叫んだ。大きな目は吊り上がっていたが、涙があとからあとから零れていた。
「なんでそんなボロ雑巾のようになってんのよっ。顔色悪いわ痩せたわ着物はずたぼろだわなんなのよそれ!」
言葉が矢継ぎ早に繰り出されるが、何の躊躇もなくギンの前に跪いて頭を抱き寄せる乱菊の手つきは柔らかかった。頭に涙がこぼれ落ちてくるのがわかった。髪の毛をすり抜けて涙が止まることなく頭皮を滑り落ちた。
「ボク、えらい臭うんや。乱菊、離れてぇな」
「知ってるわよ!」
弱い力で押し退けようとすると頭を叩かれ、反対に乱菊に力を込めて抱きしめられた。いい匂いのする乱菊の胸の中で、ギンは急に眠りそうになった。気を失いそうになった、という方が正確かもしれない状態だった。
「おかえり、ギン」
こんな状態でそんなこと言われたら。
ギンは眼を閉じた。もうすでに夢の中にいるのではないだろうかと、ギンは確かめるように乱菊の背に手を伸ばしてそっと抱きしめた。
「ただいまあ、乱菊」
ずるずると乱菊の腕の中に落ちていくギンの体。常に緊張しているその体が、みるみるうちに弛緩していった。
「乱菊、ボク、寝たいわもうあかん……」
「は? ここで何言ってるのよ! ちょっと……」
遠くで乱菊の困ったような声が聞こえていたが、ギンはぶつんと何かが切れたように寝入ってしまった。
目が覚めたときにはすでに夜中で、どうにか引きずってこられたらしい木の下で乱菊に膝枕されていた。幹に寄っかかって眠っている乱菊の顔を見上げて、ギンは自分がほどけていくのを感じて、願った。
どうか死なんといてえな。
ボクを捨てても。
ボクが死んでも。
それからのギンはやはり、家を出ては戻る、ということを繰り返した。ただ、ギンは少しずつではあるが、数字の小さい地区への道を見つけていた。山脈、渓谷、樹海、果てしない草原。地区を、地区境を安全に進むための最適な道なき道を、ギンは探っていた。
いつか二人で出て行けたら。
それまでまだ二人で一緒にいたら。
自分が逃げ出していなかったら。
自分が乱菊を殺していなかったら。
狂おしいほど求めてやまない全てのものから逃げだそうとする、その相反した感情に飲み込まれそうになりながら、ギンは二人で生きていくための道を探し続けていた。
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03月11日(土)
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