ID:104863
G*R
by K・カヲル
[120054hit]

■雰囲気的な5つの詞(ことば):幸
「おやも何もねえだろう。ここは十番隊の執務室だ」
 風と共に窓から入ってきたギンに鋭い一瞥を向け、日番谷は眉間の更に寄せる。一般の死神なら萎縮するであろう不機嫌そうなその視線にたじろぐこともなく、ギンは窓枠を乗り越えると、片手に風呂敷包みを持ったまま室内を平然と彷徨きまわる。その様子を見て、これ以上はないくらいに日番谷の眉間に皺がよった。
「何の用だ。俺はお前と違って暇じゃねえ」
「ひどい言い草やねえ。ボクかて暇なわけやないで」
「暇じゃない奴がどうして窓から入ってくるんだ」
「そら偏見というやつですわなあ。隊長ともあろうお人が」
「隊長ともあろうお人がどうして窓から入ってきやがりなさるんだ」
 腕組みをして椅子の上からギンを睨み付ける日番谷に、ギンはへらりと笑った。そして風呂敷包みを机に置く。
「この間、ウチの管轄で十番隊の隊員さんに助けてもろうた、そのお礼や。お世話なりましたなあ。その隊員さんにもよろしゅう伝えてもらえるやろか」
「おう」
 ギンは更に懐に手を入れると、和紙の包みを取り出した。
「こっちはボクから個人的に十番隊隊長さんへ贈り物や」
「……なんだよ」
 怪訝そうな顔をして日番谷がそれを受け取る。それは軽く、振るとかさかさと乾いた音がした。
「特別ええ品なんやけど、隊長さんに差し上げますわ」
「だから何だ」
「……隠した方がええんやないですか」
 ギンが言うと同時に、扉が開いた。
 驚いたふうもなく、乱菊が入ってきて、ギンに対して一礼する。
「いらっしゃいませ、市丸隊長。席を外しておりまして失礼致しました」
「お元気そうやね、十番隊副隊長さん」
 ひらひら手を振るギンに、乱菊は完璧に微笑んだ。
「すぐにお茶を」
「ええなあ。ならもう少しここに」
「出さなくていい。こいつはもう帰る」
 ソファに座ったギンに鋭い視線を向けつつ、日番谷が言った。そして立ち上がるとギンにより、顔を寄せると小声で低く囁く。
「てめえ、これは何だ」
 手には先程の和紙が握られていた。
「あーあ、潰したらあかんて。ホンマええ品やのに」
「どうして、俺に、煮干しを渡すんだ」
 日番谷のこめかみに血管が浮いている。ギンは細い眼を更に細めて楽しげに言った。
「早う雛森ちゃんのつむじ見たいやろ思いましてなあ」
「見たことくらいあるぞてめえこのやろう」
 途中からとはいえ状況を理解し、乱菊は軽い溜息をついて微笑んだ。日番谷の肩越しに、ギンが乱菊を見てへらりと笑う。乱菊は笑みを返すと、茶を煎れるために給湯室へ出ていった。





『しあわせのあとさき』

 双極の丘には風がただ吹いていた。

 ほとんど完全な円をした月が天頂にかかろうとしていた。乱菊は一人で立ちつくし、空を見上げている。山吹色の髪が風に揺れ、髪に反射した月の光が零れ落ちるように輝く。鴉色の装束がはためき、唐紅のたすきが風に乗って生き物のように揺れた。乱菊は身動ぎもしない。ただ空を見上げていた。
 風の音だけが耳に響いた。

 あの日が世界の始まりだとするならば。
 乱菊は自分に言い聞かせる。
 それはまだ終わっていない。何一つ終わってなどいない。
 別れの言葉も、謝罪の微笑みも。
 まだ世界を終わらせてはいないのだから。

 あの日ひび割れた空は何もなかったかのようにただ深く暗く。
 乱菊はただ見上げていた。あの日与えられた自分の世界の終わりを覚悟して、それでも何一つ諦めずに、ただ空を見上げていた。






 九月なので、二人の誕生祝いとしてギン乱のみでした。幼い頃から、ギンが空に消えた後のことまでありますが、最後のものは私の中で象徴的な姿です。
 追加:二番目の話は、長編の二番目と繋がっています。ギンが乱菊のもとに戻り、そして彼女を連れて出ていくところです。

02月04日(月)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ

[4]エンピツに戻る