ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■きみが泣かないことを願うよりも
 声を出して呼ぼうとして、ギンは跳ね起きた。

 薄明るい岩場にギンはいた。温い風がギンの頬を撫でた。
 ときどき浅く目覚めながら断片的な夢をみていたような気がする。ギンは目を瞬かせて、そして思い出したように目を見開いた。
 周囲には誰もいない。しかしギンは慌てたように見渡す。そして、目を閉じると耳を澄ませた。
 懐かしい気配が遠くにちらちらと瞬いている。確かに。本当に微かだけれど。
「……現世に来たんや…………」
 ギンは眉を寄せた。先日、ウルキオラが報告してきた一件で一部の虚が不穏な動きをしていることにギンは気付いていた。乱菊の実力では相手によっては厳しいかもしれない。そこまで考えて、ギンは嘲るような笑みを浮かべた。
「今は何できるいうんや……今はあかん。まだ……あかん」
 ギンは自分に言い聞かせるように、低い声で呟く。膝を曲げると、両膝に肘をのせて手で頭を抱えた。こうして目を閉じると、ギンは再び現世の方に耳を澄ます。かすかな、ちらちらと遠くにまたたく星のように乱菊の気配がする。今はまだ、感じられる。
「乱菊」
 小さく小さく、ギンは呼ぶ。
 生きていてくれと思う。
 生きていてくれさえすればいいと、それだけでいいと思う。もう、今の自分では願うことも祈ることも許されないだろうから、ただギンは乱菊の名を繰り返して呼ぶ。
 たとえ泣いてもかまわない。怪我を負って体に傷が付いても、大切なものを失って心に傷がついても。負けて、嘲笑われて、誇りを失っても、それでもかまわない。
 生きていてくれればいい。
 生きていれば、そうすればきっといつか、笑える日がくる。傷が塞がる日がくる。誇りを取り戻す日がくる。生きていればいい。死んでしまっては泣くことすらできない。
「乱菊」
 生きていてくれればいい。
 乱菊が生き残るためならどんな卑怯なことでもする。どんな非道なことでも、凄惨なことでもしてみせる。自分には誇りなどない。信念もない。ただ一つしか、もう残されていない。
「乱菊」
 もし自分が間に合わず、乱菊が殺されたらどうするだろう。そう考えて頭を振ると、ギンは両手を祈るときのように組み合わせて、額にあてた。自嘲の笑みが浮かぶけれど、それでもギンにはそうすることしかできなかった。





 『冬の花火〜ギン乱バイブル発売記念祭〜』に参加したものです。その後、本誌の方で、虚圏に月があったり夜空があったりして、おいおいおいということになりましたが、まあ気にしているとどうにも止まらなくなるので気にしないことにしています。
 さて、一応、言い訳のようなものですが。市丸さんは決して乱菊さんが傷つくことを望んでいるわけではありません。認めているわけでもありません。ですが、この状況下で傷つかないように願うことは、それは許されないだろうと思っている、とは思います。戦いが始まるのに、まあ傷つかない方が難しそうですし。
 ただ、傷ついても、いつか、いつか、生きていればいつか笑える日がくる、と思うのです。そう思わなければやっていられない、ということもあるかもしれません。でも本当に、死んでしまってはどうにもならない。この考え方は受け付けない方もおられると思います。ただ、私はそう思っていますし、そう思うからこそ、市丸さんはあの状況下でどうにか(何を考えているかは知らないけど)やっていけるのかとも思います。

01月13日(日)
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