ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■17 生け贄
その腕を取り、文句を言いつつ大前田が手拭いで肌を拭っていく。それが血飛沫を拭っている動作であることに気づき、その二人の流れるような躊躇いのなさに吉良は唖然としていた。仲が悪い? どこが? 吉良は自問自答する。
「で、隊長、先程、ウチの管轄内で虚が発生し、俺と十三班が対応しました。二名が負傷して四番隊にいるっス」
「分かった。刑軍に戻る途中で四番隊に寄ろう」
「他の業務については急を要するもんはないんで、後で」
「分かった。貴様に任せる」
両腕を拭うと大前田は立ち上がり、畳んであった隊長羽織を砕蜂の肩にかけた。そして砕蜂の顔を見てわずかに顔を顰め、丁寧に顎についた微かな血の跡を拭う。
「暖かいおしぼりは気持ちが良い。それを少し顔に乗せておこう」
「それ以上、毛穴を開けてどうするんスか」
鈍い音がして、大前田が腹を抱えて上体を折り曲げた。
「何か言ったか」
「ち、父上にも殴られたことのない腹を殴ったっスね……」
「ふん。散々私に殴られておいて何を今更。不満なら蹴ってやろうか」
「……手拭いを取り替えてくるっス」
腹に手を当てたまま、大前田が「油断した……」と呟きつつ扉に向かう。そして唖然としたまま口まで開けていた吉良を振り返ると、
「吉良、お前もカモミール茶いるか」
と訊いてきた。
「あ、はいお願いします」
「おう。もうちょい待っててくれ」
出ていく大前田を見送り、吉良は砕蜂を振り返る。砕蜂はまた花に顔を埋めるようにしている。香りを楽しんでいるのかと思うのに眼は固く閉じられていて、何か切羽詰まったように見えるその様子に吉良は言葉を失った。
大前田はすぐに戻ってきて、盆を吉良の前の机に置くとすぐに砕蜂に向かい、「ほれ、どうぞ」と軽く言って上を向いた砕蜂の顔にそれを被せた。砕蜂は背をソファにあずけ、沈むようにして座り直す。大前田はそれ以上何も言わずに吉良のところへ戻ると、良い香りのする茶の揺れる茶碗を吉良の前に置いた。
少しして砕蜂が再び出ていくまで、二人の間に会話はなかった。
細かい調整も終え、二番隊から吉良が執務室に戻るとそこには珍しく市丸がいた。吉良は驚いて足を止めた。
「おかえり、イヅル……どないしたんや」
「た、隊長、仕事をしていて下さったんですね」
「……そら君がおらんかったらボクがするしかないやないの」
少し不満げに呟く市丸を無視して、吉良は自分の机に大量の資料を置いた。これから急いで修復に当たる斑の隊員に説明をしなければならない。市丸に断って、資料を分けながら吉良は二番隊との話し合いの結果を伝える。市丸は聞いているのかいないのか、別の書類に目を通しながら、それでも全てを伝え終えると、
「ご苦労さんやったね。それでええよ」
と言った。
「そういえば、二番隊隊長さんは元気やった? 最近、全然見ぃひんけど」
「別の任務でお忙しいそうですよ。今日、ちょっとだけ執務室にお戻りになられました」
「ああそうなんや。あっちの仕事はようわからんからなあ」
市丸の言葉に、吉良は先程の砕蜂の様子を思い出した。表情が変化したのだろう、市丸が吉良を見て、「どないしたん」と訊いてくる。吉良は少し躊躇したが、先程の二番隊執務室での一部始終を話した。
市丸は笑って頷いた。
「はぁ、二番隊副隊長さんは、あれでよう気ぃつく人やからね。砕蜂ちゃんとはよう合うやろ」
「……そうなんですか?」
「そうやろ。砕蜂ちゃんは女の子らしいお人やから、あれで実は可愛らしいもんが好きやし、花とか香りの強いお茶とかは、あの任務の後はありがたいやろ。おしぼりにまで香り付きやて、よう気ぃつくわ」
市丸の言葉に吉良は首を傾げた。その様子を見て、市丸はきょとんとし、そして納得したように小さく笑みを浮かべる。
「そうか、イヅルにはわからへんか」
独り言ちる市丸に、吉良は眼で尋ねる。市丸は何かを思い出すような眼をしていた。
「砕蜂ちゃんの仕事は分かるやろ。人の首を落とす仕事や。あの仕事は体に香りがあったらまずいやろ。対象に気づかれるさかい。せやから、普段は花ぁ飾れんのや」
「……ああ」
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11月17日(土)
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