ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■06 死に場所
 小さな声で、しかしはっきりと勇音は言った。
 腕の中で弓親は小さく笑った。その笑みは力なく、だから勇音は眉を寄せる。弓親が勇音を見上げた。
「……まあ、仕方ないかな。さすがに突っ張れるほど血が残ってないや。血で汚してしまって申し訳ないけど、お願いします」
 はっきりとした声でそう言うと、弓親は眼を閉じた。腕に急に重みがかかり、勇音は慌てて抱き直す。そして意識を失った弓親を肩に担ぐと、勇音は踵を返して防御結界の中に飛び込んだ。

 勇音がまだ治療している間に弓親は目を覚ました。最も酷かった肩の傷に手を当てたまま、勇音は弓親の目を覗き込む。
「気分は、どうですか」
「……はっきりしています。痛いけどね。戦闘は」
「まだ終わりません」
 勇音がそう答えるやいなや、弓親は上半身を起こそうとした。勇音が止めようと肩を押さえると、その手首を握って弓親は射抜くような目で勇音を見る。勇音の背後で助手を務めていた四番隊員がざわめく。
「まだ治療中です」
「もう動けます。血は止まってますよね。傷も塞いでくれた。なら、僕はもう戦える。戻ります」
 弓親は勇音から眼をそらさない。勇音もまた、必死にその視線を受け止めていた。
「いいえ。私はあなたを死地に追いやるために傷を塞いだわけではありません。まだ、だめです!」
「そうだ。あなたは僕を死地に追いやるために治療したわけじゃない」
 静かに、しかし確かな声で弓親は言った。勇音は自分の手首を握りしめている骨張った手を意識する。自分のとそう変わらない大きさの弓親の手は、自分とは違う男の手をしていた。
「あなたは僕の生存確率を上げるために治療したんだろう? 戦いの場でよりよく動けるように、血を止めて傷を塞いで痛みを消して。それがあなたの任務だ。そして僕の任務は、戦うことだ」
 綺麗な顔は血を拭ったあとがまざまざとある。普段、優雅に風に揺れている飾り眉もまつげも血に濡れて重く垂れている。それでも弓親の眼は静かで確かで、少しばかり皮肉の笑みがある。普段通りに。
「何を迷うのさ。何を気にしているのさ。あなたは他人の血に塗れて必死に治療している姿が最も美しいのに。何も考えずに傷を癒していればいい。そうすれば僕らは生き残る確率が上がるんだ……それに」
 ふっと、弓親が口角を上げた。
「死地だなんて。僕がどうしてこんなところで死ぬと思うのかな。まだまだ、やらなきゃいけないこともしたいこともあるのに」
 その笑みを見て、勇音の口元もわずかに緩んだ。見慣れた笑みは血に濡れているが、それでも弓親は変わらずに笑っている。
「……判りました。くれぐれも、お気を付けて」
「そういうことで、さっさと行っちゃって下さい。お大事に」
 急に背後から声がして、勇音は体を硬直させる。弓親はにやりと片方の口の端を持ち上げた。
「冷たいね、荻堂」
「ウチの副隊長をそんなにいじめないでくださいよ。気にしやさんなんですから」
 勇音の背後で片膝をついている荻堂は、飄々とした顔でそう言うと懐から小瓶を取り出して弓親に渡す。
「予備の血止めです。さっさと塗らないと今度こそ死にますよ」
「了解。肝に銘じておくよ」
 弓親は立ち上がり、脇に置いてあった斬魄刀を手に取る。勇音はそれを正座したまま見上げる。
「では、ありがとうございました。虎徹副隊長」
「いいえ……御武運を。綾瀬川五席」
 見上げる弓親の顔色はまだ青白かったが、軽く頭を下げて戦いの場に戻る足取りはしっかりとしたものだった。勇音はそれを半ば呆然と見送る。その肩を荻堂が叩いた。
 振り返ると、荻堂が勇音の目を覗き込む。
「まだまだうんざりするほど、怪我人がいますよ。副隊長」
「はい、大丈夫です……参ります」
 勇音はそう言って軽く頬を叩いた。周囲は血の臭いと虚の腐臭で息をするのも苦しいくらいだ。呻き声と歯ぎしりの音が地を這っている。遠くから虚の咆哮が響く。
 他人の血で汚れた自分の手を見て、勇音は小さく頷いた。







 趣味全開の小話です。ええもう全開で。
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11月06日(火)
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