ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■雲の向こうの遠雷が呟きさえも掻き消すから 5
 そこで東仙は言葉を切り、藍染に顔を向けた。藍染は柔らかい気配を出して微笑んでみせる。
「そう、君の考えている通りだろう。消滅しているのでなければ……こちらから捕捉できないようにその身を処されているということだ。そんなことは可能なのか。……可能だ。あの義骸を使えばね」
 藍染は遠いものを思い出すように眼を閉じて、薄く微笑む。ギンはじっと黙って眺めている。腕を袖の中で組み、何もかも押し隠して笑って眺めている。
 目を開けて、藍染は二人を見回した。
「浦原喜助がここを追放される……ここから逃亡する直前に開発した義骸を使えば、可能なことだ。浮竹はそれを考えなかったのかな……いや、思いついても、浮竹が浦原を疑うはずはないか。浦原の居所は、今は空座町だというのに……どう考えても、疑えと言っているようなものだよ」
 ギンは黙って、ただ頷いてみせた。東仙もまた、何も言わずに頷くだけだ。藍染は満足げに笑う。この冷たい笑みは甘い香りに隠れて他からは見られない。この冷たい霊圧は甘い香りに遮られてその向こうへは届かない。ギンは身動ぎもせずにその笑みを眺めている。
 東仙が促すように、藍染の方に顔を向けた。藍染が小さく頷く。
「……そう、おそらく朽木ルキアは浦原と接触し、浦原が作成した義骸に入っているのだろう。あの義骸に入ってしまえばこちらから彼女の位置は全く捕捉できない。そして、ここで疑問が生じる」
 ここで藍染は言葉を切り、ギンを見た。その眼は射抜かんばかりに鋭く、ギンは笑ってそれを受けとめる。藍染は穏やかに笑ったまま視線を動かさない。ギンは小さく息を吐いて、
「どうして浦原さんは、朽木ルキアをあの義骸に入れたのか、つうことですやろ」
と言った。藍染が笑みを深める。
「その通りだ。なぜ死神をあの義骸に入れなければならなかったのか。なぜ朽木ルキアが選ばれたのか…………そこで考えなければならないのは、あの義骸の特性だ。あの義骸は尸魂界から位置を捕捉できないというだけではない。中に入っている死神の霊力を分解し続け、最終的にはただの人間の魂魄にしてしまう。朽木ルキアを人間にする。それはどういうことか」
 藍染は東仙に目を向けた。その視線を感じ、東仙は軽く首を傾げて微笑んだ。
「それはつまり、こちらから朽木ルキアを完全に捕捉できないようにする、ということでしょうか」
「そういうことだ」
 東仙の答えに、藍染は頷いた。
「人間になり、あの凡庸な群れに紛れ込んでしまえば、こちらからはまず発見されない。浦原喜助が企てたことはそれだろう。そして朽木ルキアを選んだ理由だが……簡単だ」
 藍染は笑みを崩さずに言う。
「朽木ルキアが奴の秘密を保持しているからだ」
 ギンは雛森が置いていった湯飲みを手に取った。もうだいぶ温いそれを片手で掴み、透き通った鶯色の茶をすする。それを見て藍染もまた、湯飲みを手に取った。口に茶を含み、飲み込むと藍染の喉が動いた。それがあまりに長閑に見えて、ギンは眼をそらして湯飲みを茶托に戻す。絨毯の上を蟻が這っていた。ギンはその行方を少しだけ追い、視線を藍染に戻した。
 藍染は一息つくと、温くなってしまったね、と呟いた。そして気を緩めた表情で空を見上げ、
「しかし、やはり彼女のいれたお茶はおいしい。後でまたいれてもらおうか」
と独り言のように言う。その顔をなぜか見ていられなくて、ギンもまた空を見上げた。
 雀が二羽、戯れながら空を横切っていった。

 そのさえずる声が遠くなったところで、藍染が再び視線を二人に戻す。その気配を察知してギンも空を見上げるのを止め、東仙もまた、周囲の気配に身を沈めるのを止めて藍染に向いた。
 藍染の表情から柔らかさが消えている。
「さて、ひとまずここで先程の話を途中にして、別の話をしよう。僕が君達に報告しておこうと思っていたことだ。先日、僕が戌吊に行っていたことは伝えてあったね。もちろん、それは浦原喜助に深く関わることでね」
 ここで勿体ぶったように藍染は口を閉じ、二人を見渡す。そして十分に沈黙したところで、口を開いた。
「見つけたんだよ」

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07月12日(水)
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