ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■絶対的な響きをもって鐘の音は時を告げた 7
「そうだね。そういう場所でそういう世界だ。力がなくては生きていけない……君は、もっと強くなりたいと願ったことはないかい」
 再び低まった声。僅かに手に力がこもり、咄嗟にギンは含み笑いをした。
「なんやねん。そない大仰に考えたりしぃひん。生き残れて食べれたらそれでええんや。小難しいことどうでもええ」
「はは。そりゃそうだね。全くその通りだ」
 絡みつく気配にギンは慎重に言葉を選ぶ。蛇に睨まれている蛙はこんな気分なのだろうかとギンは切実に感じた。逃げなければならないと体の奥から叫びが聞こえる。けれど、下手に逃げられない。
「まだこんな話は早かったかな。君は僕と同類の人間かと思ったんだけど……僕はそういうことを間違えないから」
 ……ばれていた。

 どこかから急に血の臭いがした。大量の血が溜まり、そこから立ち上る咽せるような臭いが。
 それはギンの足下から。

 ギンは笑った。
「おっさん、どう見ても貴族やろ。何がボクと同類や」
「まあ確かに僕は瀞霊廷出身なんだけど。いやね、世間の見方とか、捉え方とか、似ているように感じたんだ」
「ボク、そない難しいことよう考えんわ」
「そうか。まだそういうものかな。でもそのうち君といろいろ話してみたいね。君、卒業したら僕の隊に来ないかい。君のような優秀な子は大歓迎だよ」
 藍染の声はあくまで爽やかで柔らかで、それがギンの背中を撫で上げる。言葉だけを捉えれば、決しておかしなことを話しているわけではないのに、響きが、裏に潜む気配が、ギンを緊張させていた。
「ボクはおっさんみたいなうっとしお人の下で働くんはごめんや」
「酷いな。ははは。まあそのうちに勧誘に行くよ」
 藍染の背中が揺れた。
「君を逃したくはないからね」

 血の臭いがした。立ち上る臭い。鉄の、生暖かい、紅い。

「僕はそれなりに人望があるらしくてね、良い部下に恵まれているんだけど、そろそろ感覚的に近い人間を部下にしたかったんだ。僕の考えに共感でき、かつ共に歩める実力のある、部下を」

 液体が滴る音がした。間隔をあけて、ぽたり、ぽたりと。

「以前、少し失敗してね。結果的には優秀な人材を一人、得られたけれど、その代わりに数人死んでしまった。あれは良くなかった。使い方を間違えてしまったね」

 紅い色が目の前に見えた。

「……おっさん、ボクを脅しよるんか」
「ははははは。酷いな。僕はそんな下世話なことはしないよ。脅してなんかいないさ。それに、君を脅す事なんてできない。君は自由で、孤独で、生の喜びも死ぬ恐怖も富の誘惑も何もかも、君を縛るものは何一つない質の人間だろう? そんな人間をどうやって脅す?」
「そうやね。そやさかい、そない話は止めへんか。意味ないわ」
「そういうわけにはいかないさ。優秀な人材は勧誘しておきたいんだよ」
「ボクは、自分がおっさんと同類とは思えへんよ」
「君の本質は僕と同じだ。違うと言うなら、それは君の勘違いだ。そうしたら、その勘違いの原因を取り除くまでだ。人でも、物でも、世界でも」

 かなり昔、まだ乱菊と出会ったばかりの頃に大道芸の老人に言われた言葉をギンは思い出していた。そして、今まさに、作りすぎた血溜まりに捕まって転んだ自分の姿を遠くから見ていた。
 全身があかくあかく染まっていた。

「ほんま、物騒なお人やな、おっさん」
 ギンは静かに訊いた。
「ボクに大事な人がいたら……親でも兄弟でも奥さんでも、そんなんいたら、笑うて斬り殺しそうやね。邪魔やて」
 藍染が優しい口調で答えた。
「その人物が、君の勘違いの原因ならね……まあ、でも斬り殺すなんてことにはならないさ。そんなことはしないよ。僕は平穏な生活を大事にしているよ。でも親兄弟はともかく、奥さんなんているのかい。僕だってまだ独身だがね」
「流魂街出身に親兄弟なんぞいてたまるかい」
 軽い軽い、どうでもいい口調でギンは言い放つ。
「ほんで、このナリで、奥さんおるように見えないやろ」
「はは。見えないな。よかったね、いなくて」

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04月10日(月)
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