ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■中詞5題
やちるはひょこひょこと乱菊の横に立つと、顔をのぞき込んで笑う。
「らんちゃんこそ、どうしたの。こんな屋根の上で」
「あたしは仕事のさぼり中よ。隊長には内緒よ」
「ひっつん、額に青筋浮かんでた」
「いつものことよ。血管ぶち切れないか、心配よねえ」
日番谷が聞いたらそれこそ血管のかわりに堪忍袋の緒をぶっちぎりそうな言葉を悪びれずに言い、乱菊は明るく笑った。やちるも一緒に笑い、そして乱菊の頭を抱えるようにして抱きついてくる。子供特有の甘い匂いと高い体温に急に包まれて、乱菊は目をしばたたかせた。
「やちる?」
乱菊の顔の横で、柔らかい頬がやわやわと動く。
「らんちゃん、明後日、現世に行くんでしょ」
「ええそうよ」
「だからおせんべつに元気のおすそ分けー」
ぎゅうと小さな腕に抱きしめられて、乱菊は思わずくすくすと笑った。そして乱菊もやちるの体に腕を伸ばし、ぎゅうと抱きしめる。
「やあね、やちるったら。あたし、元気よう」
そうは言ってみたが、それでも乱菊はやちるの肩に埋めるように顔を押しつけた。自分よりも高い体温に溶けるように感じて、乱菊は目を閉じる。尻の下の太陽の残熱とやちるの体温に包まれて、乱菊はほうっと息をついた。やちるは無言で、乱菊の頭をぽんぽんと軽く叩く。
なんとなく照れくさく、乱菊は顔を離すと、やちるの両肩に手を置いたまま向かい合って大きく笑う。
「おすそ分けされたわ」
「はい、おすそ分け終わり!」
やちるもまた顔全体で大きく笑い、小さな手で乱菊の腕をぽんぽんと撫でるようにした。そして小首を傾げて、今度は柔らかに笑って言う。
「向こうに行ったら、ぎんちゃんに会えるといいね」
一瞬、何を知っているのかと乱菊は驚いた。自分は何も話していないし、ギンが話していたとも思えない。しかし、乱菊をのぞき込むやちるの目は静かでただ柔らかで、だから乱菊は何も誤魔化さずに、
「そうね」
と呟いた。
「とりあえず一発殴らないといけないしね」
「ぎんちゃん強いから、頑張ってね。らんちゃん」
その言葉に、乱菊は一度ゆっくりと瞬きをし、そして頷いた。
「ええ、何が何でも殴るわよ」
風に誘われるように空を見上げると、星が瞬いていた。
「何が何でも、絶対に」
体が重いなら地を這えばいい。
空が遠いなら高いところへ登ればいい。
まだ世界は終わっていない。与えられた世界はいまだ美しいままで、だから何も諦めることはできないから。
『君のその笑顔を守るために、』
ギンはこちらを見てとても嬉しそうに笑う。
その顔を眺めていると、いくらふくれっ面をしていても乱菊はつられて笑ってしまう。普段のギンはどこか大人びていて、常にどこか緊張させた油断のない顔をしている。行き違う他人に向ける顔は笑っているが、薄く軽く、とってつけたようなものだ。だから、乱菊の方を見て笑うときのその子供らしい表情がとても痛々しくもあり、またそれを見られることを乱菊は素直に喜んでいた。少なくともギンが年相応に笑うことが出来るときがある、ということに安心していた。
「ほら、もう、笑って誤魔化さないの」
笑うギンの頬を軽くつねり、乱菊は口元が緩むのをこらえてしかめ面をしてみせる。何も言わずに二日間も家を空けたギンは傷だらけになって帰ってきたから、乱菊は先程からずっと泣いたり怒ったり叱ったり笑ったりの繰り返しだ。荒ら屋の入口に座り込み、傷を丁寧に洗い、保管してある薬草を貼り付けたりしながら乱菊の口は動くのを止めない。その様子をギンはただ笑って眺めている。ただ、柔らかい溶けそうな顔でギンは乱菊を眺めている。
「ちゃんと聞いてる? あたしが見ていないところでこんな傷こさえて来るんじゃないわよ。あんたは傷を放っておくから、どんどん悪くなっちゃうんだから」
「うん。よう聞いとる」
「きちんと傷を手当てしないとだめよ。あたし、怒ってんのよ。分かってる?」
「うん。よう分かっとる」
へらへら笑ってギンは答える。乱菊はこらえきれなくなって、苦笑した。
「あんた、返事だけはいいんだから」
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02月09日(土)
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