ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■雰囲気的な5つの詞(ことば):祈
『04.献花の如く、それは』

 ときどき、夢を見た。

 あかいあかい緋色の夢に溢れるのは誰のものともつかない屍の山。その中に佇む自分も死んでいる。死んでいるのに、殺し続ける自動人形。刀は錆び、欠けて、もう役に立たないそれで無理矢理に斬っていく。嫌な感触。嫌な音。
 そしてやがて目の前に神を名乗る男が現れる。
 穏やかで、優しげで、慈悲に溢れた表情をして、他人の血で紅く染まった男が手折った花を持ってやってくる。
 山吹色の花を持ってやってくる。






 ほら。
 君が求めていた花じゃないのかな。






 目を覚ますとそこには闇しかなかった。ギンはひっそりと嗤う。
 冷たい汗が背中を流れ落ちた。

 死ぬときに、花はいらない。
 あの花でなければ欲しくはないし、あの花は手折らない。手折らせない。
 ただ咲いているのを見ているだけ。
 ただ咲き誇るのを眺めているだけ。
 それだけで。






『05.祈る言葉なんて持っていないけど』

「おや。これ、本当に美味しいね」
「そうなんですよ。是非ご一緒にと思って」
 一口、透明な液体を口に含んで笑みを浮かべた京楽に、乱菊は誇らしげに微笑んだ。月の光がそれを照らし、縁側に柔らかな影が落ちる。二人の間にある硝子の徳利の中で揺れる酒を通った光が朱塗りの盆に揺らめき遊ぶ。
「美しい女性にそんなことを言われるとは、光栄だねえ」
「何を仰いますやら」
「いやいや、美しい人の前では本心しか言えないんだよ、僕は」
「七緒が来られなくて寂しがっていらしたくせに」
「はは。寂しさもまた肴になるよ。こんな月夜の晩にはね」
 猪口の酒を飲み干して、京楽は澄んだ眼を月に向けた。僅かに欠けた月は、それでも余すところ無く天を照らし地を照らしている。月光が溶けた闇は柔らかく周囲を漂っていた。乱菊もまた天を仰ぐ。月はいつかみた時と同じ姿でそこにあった。
「確かに、寂しさすら透きとおって溶けてしまいそうですね」
 乱菊の言葉に、京楽が優しく微笑んだ。
「そう。こんな綺麗で静かな月の光になら、孤独も憂いも哀しみも溶けるものだよ。陽の光は、時にあまりに強すぎて残酷だったりするからね」
「……そうですね」
「こんな夜には、何かをそっと願ったり祈ったりして眠ればいいのさ」
 京楽はもう一口、酒を口に含む。空いた猪口に乱菊が徳利から酒を注いだ。酒が満ち、京楽の骨張った掌に光が零れる。
「何に、祈るんですか」
「さあね」
 戯けたように京楽が首を傾げる。
「僕らは神と呼ばれる者だけれど、別に願い祈る対象ではないからね」
「現世で言うような神様なんて、いませんしね」
 乱菊は呟くように言った。
「まあ、少なくとも僕は会ったことがないね……でも」
 京楽の口調は静かで柔らかかった。
「何かに祈ればいいのさ。たとえば空を流れる星でもいい」
 二人の目線の先で、一筋の光が流れる。乱菊は眼を細めてその行方を追った。
「何か、祈りました?」
「内緒。君は?」
「……言葉になんてならないようなことですが」
 自分を見つめる京楽に、乱菊は消え入りそうに微笑んだ。
「いつも、どこかでずっと思っていることを、とりあえず」
「それでいいのさ」
 京楽が口角を引き上げて笑った。






 四番目と最後をけっこう気に入っています。ギン乱生誕祝いの一環として書いたものですが、それにしては二人が絡まないのでどうしようかと思いました。京楽隊長を書くときには、大人・気障・分かりやすいと繰り返し呟きながらセリフを考えています。

02月06日(水)
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