ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■雰囲気的な5つの詞(ことば):幸
「いいえ別に何でもないわよ」
「怒っとるやん」
「怒ってないわよ」
両膝と両手でギンは乱菊に寄っていく。乱菊は顔を背けた。それを気にすることなく、ギンは背後から横に廻り、覗き込む。
「らーんぎく」
「…………」
「らーんぎーくちゃん」
ギンがまとわりつくように体を寄せてくるので、乱菊はつい振り向いた。そしてふっと吹き出す。ギンは両手を床につけたまま、顔を乱菊の右腕に寄せて見上げていた。
「あ、笑うた」
そう言って見上げてくるギンの顔もまた、笑みを浮かべている。乱菊は右手を軽く上に向けて、ギンの顎をかりかりと掻いた。
「あんた、まるで猫みたいよ」
「猫やねん」
ギンがごろりと乱菊の膝に頭を乗せて、上を向く。乱菊は額にかかっている銀髪に指を絡ませた。柔らかい癖のない髪が、さらさらと指の間をすり抜ける。
乱菊は微笑んだ。
「調子に乗ってるんじゃないわよ?」
「せやかてボク、猫やし」
「猫なら鳴いてごらんなさいよ」
ギンもまた手を伸ばし、乱菊の肩の上で揺れている山吹色の髪を指に絡ませた。それをくるくると指に巻き付けながら、一言、
「にゃあ」
と言う。
「ばかねえ、あんたって」
込み上げてくる何か柔らかい暖かいものに乱菊はどうしようもなくなって、笑いながら抱え込むようにギンの頭を抱きしめた。その体を、ギンが下から腕を伸ばして抱きしめる。
『どうかお幸せに』
下の方から笑い声が聞こえてきた。
屋根の上に上がって書類を確認していたギンは、屋根の端から下を覗き見た。街路樹の緑の隙間から、金色に輝く髪が見える。
乱菊が、他の副隊長達と歩いていた。隣にいる小さい黒髪は雛森のようで、他に伊勢や虎徹勇音の姿があった。ギンは気配を消したまま、ふっと眼を細めて笑う。飛ばないように書類を懐にしまい込み、ギンは片手を屋根瓦についてじっとその姿を眺めていた。
「今度みんなで行きませんか」
雛森が跳ねるような声で言った。
「ほら、月末に副隊長会議があるじゃないですか。その後にでも」
「そうですね。終了後に仕事に戻ることがなければ」
伊勢が眼鏡の位置を片手でなおしながら答える。
「あ、あの、妹も誘っていいでしょうか」
勇音は高い背を曲げて、両手で抱えた書類で顔を隠すようにして言った。
「当たり前じゃないの。清音も喜ぶでしょ。会議が終わったら呼び出せばいいんだもの」
乱菊が勇音を見上げるようにして笑う。勇音がほっとしたように笑みを浮かべた。つられたように全員が笑う。
「楽しみですね。あのお店、現世でとても有名だった職人さんがいるそうなんですよ。スイーツで賞もとったことがあるとか」
「よく人の大勢いる流魂街からそのような技術のある人を捜し出せましたね」
「あの、なんか、南一地区でお菓子を作っていたそうですよ」
「ああなるほど」
「楽しみねえ。洋菓子を出す店はまだまだ少ないから、すごく楽しみ」
乱菊が溶けるような声で呟くように言う。
「しあわせって、味がするなら絶対に甘い味でしょうね。食べているとき、ホントにそう思う」
お酒を飲んでいるときも同じように言うのに乱菊さんったら、と浮き立つような笑い声が沸き上がる。それを聞きながら、ギンは込み上げてくる微笑みを隠すことなく浮かべていた。もう遠いとおい昔、果物を食べて笑う乱菊の顔を思い出す。あの頃、甘いものなど果物くらいしかなかった。果物ですら、手に入れるのに苦労した。
もう少し。
もう少ししたら、しばらくは色々と混乱するだろうけど。
ギンは柔らかい眼差しを遠ざかる山吹色に向ける。
混乱が終われば、また、今とは異なるけれどきっと幸せな日々になるから。
どうか、どうか君は。君だけは。
たとえそれを君は喜ばないだろうけれど、それでも君だけでいいから。
「ボクは見ることないやろけどなあ」
微笑みを浮かべたまま、ギンは小さく呟いた。
『それは安らぎにもにた』
「おや十番隊隊長さんやないの」
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02月04日(月)
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