ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■君といられる残された日々を数えているのに
「一服って、失礼ねえ。単なるお酒よ。本当に暖まってよく眠れたでしょ。あんたがいなくなっていたときに、森の向こうの集落で頂いたの。あたしだって飲みたいのを少し我慢してあんたにあげたんだから、感謝しなさい。美味しかったでしょ」
「そうやけどね。眠りすぎて乱菊が出ていくのに気付けへんかった」
話す声が自分でも驚くほどしおれていて、ギンはごまかすように着物に勢いよく腕を通した。乱菊の背はまた少し揺れる。
「家を出るときにチカラを隠したりしなかったのは、目印っていうのもあったけど、あんたに気付かれないようにってのもあったからね。あんた、人の気配が消えると目を覚ますみたいだから」
「あれだけ濃いぃ気配残されたらなかなか気づけへんよ。まあ、追うのは楽やったんけどな。かたつむりの這った跡みたいやったさかい」
「失礼ね。かたつむりって何よ、かたつむりって」
ふて腐れた声で言い、乱菊は振り向いた。ちょうど帯を締めているところで、最近、自分の体の変化が気になっていたギンはなんとなく慌てた。しかし乱菊はそんなギンの様子を気にすることなく、唇を尖らせている。
「だいたい、どうしてこんなに荷物があるのよ。頂上まで行って帰るくらい、一日で大丈夫よ」
そう言って乱菊はふくれたずだ袋を突いた。帯を締めて息をつき、ギンは庇うようにずだ袋を手にとって抱える。
「遅うなったら寒うなるわ。それにこの山えらい高いんやで。山の上涼しいし、もし夜ぉ明かすことなったらどないするねん」
しかし乱菊は拗ねたように顔を背けた。
「一日で大丈夫よ。あたし、行ったもの」
「え、いつ」
「あんたが勝手にいなくなっている間に」
何か言おうとしていた口を閉めて、ギンは動きを止めた。そっぽを向いている乱菊の唇は尖ったままだし、眉は不機嫌のときに必ずなる吊り上がった形をしている。何を言おう。何か言わないと。ギンはもう一度口を開け、しかしまた閉じた。鳥の声が聞こえる。ここはまだ斜面もきつくはなく、木々も生い茂っているから生き物の気配も沢山あった。しかしギンは周囲に気を配っていられない。様子を窺うように、
「……乱菊、怒ってはる?」
とおそるおそる声を掛けてみる。乱菊はちらりと一瞥し、
「べっつにー?」
と言った。ギンはずだ袋に隠れるようにする。視線が痛い。
「まあ? 夕べ山に登ろうって言ったら反対されたとか、面倒だとか言われたけど? あんたが慌てて登ってきた気配を感じられただけでまあすっきりしたし? いいのよ別に。いいんだけどね」
言われて、ギンは昨晩の会話を思い出す。
乱菊が山に登ろうと言い出したときに、ギンは確かにあっさりと反対した。今、潜り込んでいるあばら屋は山の麓にあるから、行くこと自体は別に問題ではなかった。問題は山にあった。
この山々は西流魂街の端に位置していた。
西流魂街の八十地区は、東に位置する地区境の山脈と西に位置するこの山脈に挟まれている。東の山脈は七十九地区との地区境であったから、山の向こうには土地もあり人もいる。しかし、西の山脈の向こうに何があるのか、知る者はいなかった。ただ流魂街はこの八十地区で最後であり、つまりこの山々は尸魂界の端にある。山の向こうにはこの八十地区よりも更に荒れ果てた、何もない荒野が広がっている、という認識が人々に定着していた。
乱菊と出会う前、ギンは興味本位で少し登ったことがある。この山々は中腹くらいから急に濃密な霊気が霧のように漂い始める。下から見ていると雲のように見えるから、ずいぶんと低い位置に雲がかかっているとギンは思っていた。だから霊気の霧に突入したときに、ギンはそれの違和感に驚いたものだった。霧そのものは害はなかったようだったが、ギンはそれ以上登ることはせずに山を下りた。当時のギンはまだ自分の持つ霊力のことも、霊気などのこともよく知らなかったし、なによりあの霧は明らかに何かを遮断していると感じたからだった。
そういうことをギンは乱菊に簡単に説明し、それに登ってもなんもないやろ、世界の端やで、と言ってその話をさっさと打ち切った。その後、乱菊に酒を飲まされたのだ。
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01月15日(火)
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