ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■君といられる残された日々を数えているのに
歩いてしばらくすると左右が迫り上がって高くなり、確かに切り通しのようになっていった。少し暗いその道のような底のような狭いところを、霊気の霧が流れてくる。流れをさかのぼるようにしてギンと乱菊は歩いていた。苦しくはないが霊気はさらに濃く、体にまとわりつくようにして背後へと流れていく。
見上げると、切り立った左右の壁は終わりがないように上に伸びて、霧に隠されていた。ぼやけた太陽も見えず、ただぼんやりとある明るい筋が遠い空なのだろう。心細くなりそうに不確かな光景だった。
ここを一人で歩いていた乱菊を思い、ギンは眉をひそめた。いつもいつもふらりと消えるギンのことを、乱菊はどう思っているのだろう。どう思って、ここを歩いていたのだろう。ギンは心なしうつむいた。どんなに乱菊が大事だろうと、それでもこれから先、自分がまたふらりと逃げ出すことをギンは確信している。
背後を歩く乱菊の気配はかわらずあった。そのことに安心しすぎていないだろうか。そのことに甘えすぎてはないだろうか。だから今朝、乱菊がいなくなっていたことに自分はあれほどまで慌てたのではないか。ギンがうつむいたままそっと振り返ると、乱菊と目があった。
「何? どうしたの。歩くの飽きた? お腹空いてもう動けない?」
乱菊はきょとんとした後、柔らかく微笑みかけてきた。ギンは、自分が情けない顔をしているなと思いながらも笑って首を横に振る。
「ううん。なんでもあらへんよ」
「そう? 手を繋ごうか? なにも、一列になって歩くこともないんだしね」
ちょっと狭いけど、と言いながら乱菊はギンの横に並び手を取った。柔らかい、暖かい手がギンの手を包み込む。
照れくさくなって、ギンはごまかすようにおどけた声を出す。
「乱菊、今日は頼もしいわあ」
「だってあたしはこの先に何があるか知ってるんだもの」
くるりと大きな青い目が動き、乱菊は楽しそうにギンを覗き込む。そしてふふふと笑うと、先導するようにギンの手を引いて歩き始めた。
一夜限りの恋は蜻蛉
ふるさと思いて枕を濡らす
道々歌うは帰れぬ童
乱菊が小さく歌い始める。節回しも適当な、昔どこかで会った花街の女が歌っていた数え歌だった。ギンは自分も一緒に歌おうと口を開けたが、笑って口を閉じて耳を澄ます。
夜ごと姿をかえゆく兎
いつしか消えるは涙か魂か
娘の結い上げほつれて流れ
ゆっくりと乱菊は歌う。周囲は少しずつ明るくなってきたが流れる霧はますます濃くなり、隣にいる乱菊の姿も霞み始める。ギンは手を握る力を強めた。乱菊の手もまた、強く握り返してくる。
鳴子の音色は乾いて響く
社の囃子は遠くに霞み
ここに花咲き乱れて枯れて
乱菊がこちらを見る気配がして、ギンは隣を見た。乳白色の冷たい霧の向こうで、乱菊が大きく笑った。
とうにさめてる恋の夢
ふと、足下の感触がかわった、
と思った途端に、霊気の霧が急に晴れた。
青い空の下には、見渡す限り色とりどりの花が咲いていた。
赤、白、黄、桃、橙といった様々な花が咲き乱れ、緑の葉とともに揺れている。その上には深い青い空が広がり、そこには雲一つない。
冷たい爽やかな風が吹いている。明るい日差しが花々を照らしている。
真っ白な視界が急に色に溢れ、ギンは口を開けたまま呆然とした。そのまま隣を見ると、乱菊は満足げな笑みを浮かべてギンを眺めている。
「どう?」
乱菊に問われて、ギンは口を閉じてただ大きく頷いた。
足下を見ると、花々の隙間から、いや、花から霊気が立ち上っていた。それはこれまで歩いてきた切り通しの谷に向かって足下を流れている。振り返ると、谷の入り口に集まったそれは濃密になり壁のように盛り上がり、谷を埋めるようにして流れ込んでいた。
「……すごいわあ。夢のような場所やね」
ギンがようやく呟くと、乱菊は頷いてギンの手を引いて歩き始めた。素直にギンはついて歩く。花々は足を避けるように揺れて、なぜか足裏には草花を踏みしめている感触はない。甘い香りが霊気に混じって漂っている。
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01月16日(水)
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