ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■きみが泣かないことを願うよりも
潰すぞ。
ギンの口に薄い、三日月よりも薄いうすい笑みが浮かんだ。
手を勢いよく水を払うように横に振ると、ギンの腕に巻き付いていた霊力がかまいたちのような勢いで男達に襲いかかった。男達は血を噴き上げながら飛ばされて、地面を滑るように転がる。ギンは即座に刀を抜いた。
「いったあっ」
急に乱菊が起きあがった。
「痛っ、あたし気を失ってた? あ、あれ、やだあ、なにこれ、すっごい血が流れてる」
呆気にとられているギンを気にすることなく、乱菊は自分の顔面を流れる血を拭っては手にべとりとつく血を見て驚いたり傷口に触れては驚いたりしている。
「頭って切るとホントによく血が流れるのねえ。傷口はあまり大きくないみたいなのに。あー、油断した。まさか気絶するとは思わなかった。ごめんね、ギン。あいつらは?」
血塗れの顔で微笑まれ、ギンは唖然としたまま、倒れている男達を指さした。男達は動けないのかうめき声を上げて転がっている。それを見て乱菊はほっとしたように息をつくと、ギンに血塗れの手を伸ばした。
「起こして」
あ、はあ…うん、……平気なん?
「うん、大袈裟に血が出てるだけよ。さっさと逃げるわよ」
ギンが手を取って引っ張ると、乱菊は立ち上がって平然と、着物に付いた埃を払っている。ギンは懐から手拭いを取り出すと、とりあえず傷口を押さえるようにして乱菊の頭に巻き付けた。
「ありがとう」
乱菊が柔らかく微笑む。ギンはようやく安堵がじわじわと沸き上がってきたのを感じた。どう堪えても目の奥がしみて、ギンは誤魔化すようにへらりと笑った。
乱菊、血塗れで笑うとえらく怖いわ。
即座に乱菊はギンを殴った。そして睨み付けるようにすると、ふっと目を細め、
「大丈夫よ、ギン。生きてるでしょ。傷もそのうちに消えるわ」
と血塗れのまま笑った。夜風が吹いて山吹色の髪を揺らした。乱菊の顔が一瞬隠れた。
「ほら、もう傷はないでしょ」
夕焼けの暖かい茜色に染まった乱菊が俯いて、髪を持ち上げて傷口を見せている。傷は消えかかっていて、乱菊が手を下ろすと髪に隠れて全く見えなくなった。肩の下あたりまで伸びた髪が揺れる。学院の白い制服に橙色の光がこぼれ落ちる。顔を上げた乱菊は、大人に近づいた顔をしていた。
きれいに消えるもんやなあ。
低くなった声でギンは感心したように呟いた。そして揺れる乱菊の髪に手を伸ばす。その手も、大きく、骨張っていた。
「あんただって、傷はそんなに残っていないでしょ」
足をぶらぶらさせて、乱菊は微笑んだ。そしてわずかにギンに体を寄せる。幹にもたれていたギンは身を引くことなく、ただそっと乱菊の頭に額をあてた。
ボクんこと、ほんまに怖ない?
「怖くないわよ」
怒っとらんの?
「怒ってもないわよ」
傷つけたやろ? ボク。
「傷ついてないとは言わないけど、でもね、ギン。あたしは笑っているでしょう? 傷ついても、時間が経てば笑えるものなのよ」
ギンが顔を上げると、鴉色の装束を着た乱菊がのぞき込んでいた。大人の顔をして、大人の目をして、そしてひっそりと笑みを浮かべた。
「時間が経てば、笑えるようになるものよね、本当に」
乱菊の髪から線香の匂いがかすかにした。ああ、命日だ、とギンは思い出す。
お墓参り、してきたんやね。
ギンの言葉に、乱菊は頷いた。誰の気配もない薄暗い資料室の棚の影で二人は隠れるように身を縮こまらせて、だからお互いの顔がとても近かった。乱菊の少し哀しげな、けれどもうすっきりと澄み切った薄い青灰色の目をギンは見つめる。
「やっと、笑って思い出せるようになったわ」
よう泣いとったもんなあ。
「しょうがないでしょ」
乱菊は小さく笑った。
「でも笑えるようになるものなのよ。生きてさえいれば」
光の塊が爆音を響かせてギンに落ちてきた。その光が乱菊とギンを隔てる。乱菊は呆然として空に浮かぶギンを見上げている。隔絶する光があまりに強すぎてギンは乱菊の姿に目を凝らす。
乱菊の気配が微かになった。ギンは慌てて手を伸ばす。山吹色の暖かな光だけがちらちらと遠くに瞬いている。手を伸ばしても届かない。
らんぎく。
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01月13日(日)
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