ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■17 生け贄
 大前田が帰還したのは出ていってから一刻ほど経ったあとで、まだ吉良は三席と打ち合わせをしていた。大前田が入ってきた途端、三席が弾かれたように立ち上がり、つられて吉良も立ち上がった。
「お疲れ様でした」
「おう、ご苦労さん。吉良、悪かったな」
「いえ、別にいいんですけど、大前田さん、怪我なさったんですか」
「んにゃ、隊員の血」
 大前田の手や頬には血がこびりつき、それはまだ乾いておらず鮮やかな緋色をしていた。それを大前田は手拭いで乱暴に拭う。
「怪我人が二人出た。俺が担ぐ方が早いからそうして四番隊に放り込んできたんだよ。三席、ここはご苦労だったから四番隊に行ってくれ。手続きとかせずに来たから、それをしろ」
「了解しました」
「おう、助かった」
 大前田は高位席官へ続く扉を開けると三席が横をすり抜けていく。大前田は中には入らずにそこから指示をする。
「四席、三席と一緒に四番隊へ行ってこい。五席と六席は十三班の奴らの報告書を見ておけ。完成したら俺に持ってくること、いいな」
 返事が扉の向こうから聞こえ、大前田は扉を閉めて吉良の方に向いた。
「慌ただしくてすまねえ。そっちはどう進んだ?」
「もう大方決めましたよ。細かい部分だけ決めてしまいましょう」
「そうか、分かった」
 大前田が吉良の前の椅子に座ろうとして、ぴくんと顔を上げると、座るのを止めて立ち上がる。どうした、と吉良が尋ねようとしたときには大前田は廊下への扉を振り向いた。
 扉が乱暴に開けられ、刑戦装束の砕蜂が入ってきた。
 吉良が慌てて立ち上がり深く礼をする。砕蜂はそれに鷹揚に頷いた。
「お疲れ様っした」
「うむ」
 大前田は礼をすると、吉良に「もう少し待っていてくれ、わりぃ」と囁いて席官の部屋へ出ていった。砕蜂はソファに沈むように座り、脇机の花に目をやる。そして脇机に両肘をつくと、頭を抱えるような格好で花に顔を埋めるようにした。
 吉良はその砕蜂の、露わになった背を呆然と眺めていた。その背中は普段の隊長羽織の背とは違い、どこか疲れて、小さく見えた。これもまた一つの長の姿であるはずなのに、と吉良は不思議に思う。そして、腕から肩にかけて細かく緋色の飛沫が不規則な模様のようにあることに気づいた。何かの肉片のような赤黒いものも付着している。
 唐突に吉良は砕蜂のもう一つの職務の内容を思い出した。
 緊張の走った吉良に気づいたように、砕蜂は凛とした眼を吉良に向けた。
「何を立ちん坊になっている。気にせず座れ」
「は、はい」
 機械人形のような動きで吉良が座ると、砕蜂は面白そうにわずかに口角を上げた。
「今日はどうした」
「はい、明後日に予定されている合同の修復作業について大前田副隊長と話し合いをしておりました」
「ああ、そういえばそんなものがあったな」
 思い出すように砕蜂は眼を上に向けた。
「すまぬな。私は今少し忙しい。全て大前田に一任しているから、奴とやってくれ」
「はい。こちらも市丸隊長は何もなさっておりません」
「ああ、市丸ならそうだろうな」
 くくっと口の中で笑い、砕蜂はソファの上に脚まで乗せて横座りになった。砕蜂の気を緩めたような姿を初めて眼にした吉良は逆に固くなった。
 そこへ大前田が手拭いと盆を手にして入ってきた。どちらからも湯気が立ち上り、微かに良い花の香りがする。大前田は盆を脇机に置くと、受け皿をまず置き、そこへ茶碗を乗せた。
「今日はこれであちらは終了っスか」
「いや、すぐに戻る」
 砕蜂の言葉に大前田は動きを止めて、体を起こした。
「片づけますか」
「いや、もう大丈夫だ。これから報告に向かうだけだからな、構わん」
「そうスか」
 大前田が砕蜂の前に膝をつくと、砕蜂が片腕を前に差し出した。
「ガキじゃないんスから、たまには」
「怠い」
「……はいはいはい、やらせて頂きますよ俺が。どうして拭いてから来ねえんスかね…ったく」

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11月17日(土)
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