ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■06 死に場所
 どの斑も血塗れの死神を囲んで必死の治療に当たっている。くぐもった呻き声。痛みを堪える歯ぎしりの音。制止の声とそれを振り切って戦闘に戻ろうとする怒鳴り声。濃密な血の臭いが虚の臭気に混じり、目に映る光景はどこか霞んでいる。
 瞬間、全身にのしかかる重い気配が現れた。
 勇音がその方向に振り向くと同時に叫び声が上がる。土埃の向こうに、暗い影が複数見えた。勇音は反射的に言霊を呟くと、その方向に鬼道を撃ち出す。
 重い音が、轟いた。
 伊江村を振り返ると、彼はこの重い圧力に揺るぎもせずに治療に当たっていた。荻堂がわずかに勇音に眼をやり、小さく頷く。勇音は花太郎の姿を探した。花太郎は怪我人の前に片膝をついて、虚の方向を硬い顔で見ている。
「花太郎! この場を任せます!」
 鬼道を撃ち放ちながら、勇音は声を張り上げた。花太郎が虚をつかれた顔をして、すぐに慌てふためく。
「え、ええ、あの、僕なんか」
「山田七席!」
 勇音は裏返りそうな声を抑えて叫ぶ。花太郎は口を引き結んだ。
「伊江村三席は重傷者の治療中です! そうしたらこの場で指示を出せるのはあなただけでしょう! 軽傷者の治療に当たっている斑に防御結界を張らせて! 誰も結界から出さないように!」
「わ、判りました!」
 花太郎のその言葉が引き金のように、勇音は抜刀すると虚に向かって駆けだした。背中で花太郎の指示を出す声がする。金属音が続けざまに鳴り響き、薄い膜が虚との間に現れた。その膜を突き抜けて、勇音は目の前にいた虚をいきなり斬り捨てた。暗い臭いが断面から噴き出して、姿とともに溶けるように消える。その煙る影に飛び込むと、勇音は刀を突き立てた。金切り声があがる。耳を塞ぎたい衝動を勇音は奥歯を噛みしめて堪えた。鉄の味が口の中に広がる。
 ここで私が防がないと。
 勇音は自分に言い聞かせるように小さく叫ぶ。刀を振るうと勇音に伸ばされていた黒い腕が斬り裂かれ、霧のように形を崩した。
 ここで私が堪えないと。
 崩れた奥の体に刀を突き立てる。断末魔が響き渡り、勇音は気合いとともに斬り捨てた。嫌な感触が手に残る。贖罪のための斬撃とはいえ、この感触に勇音は慣れない。前に虚を斬ったのはいつだったろう。勇音は振り向きざま背後にいた虚を倒しながら、ふと、思った。
 一際重い気配が現れた。
 勇音は瞬間的に跳んで後退った。しゅ、と空気の擦れる音とともに立っていた地面がえぐれる。一跳び、二跳びして勇音は攻撃を避けた。槌のような腕が轟音を響かせて地面を叩き、えぐる。
 この場は、他に虚は残っていないようだった。勇音は周囲に気を巡らせてそれを確認すると、腕を避けて虚の頭上に跳び上がる。刀を構えた。
 と、急に虚の体が縦に斬り裂かれた。
 勇音が降りるよりも早く、虚は霧状になり溶けるように消えていく。勇音はその黒い霧の中を降り、着地した。刀を鞘におさめて霧の向こうを見る。
「……ありがとうございました」
 そう声を掛けると、ふふん、と軽い笑いがした。
「いえ、余計なお世話かな、とも思ったんですけどね。ま、戦闘で四番隊の手を煩わせたら更木隊失格ですから。失礼しました」
 虚の残骸が消えると、そこには血塗れで真紅に染まった綾瀬川弓親の姿があった。勇音はその姿に息を呑む。弓親の顔色は紙のように白い。その右半分を額から流れた血がおおっている。口元に浮かべている皮肉な笑みは日頃の弓親のものだったが、その口からも血が流れていた。
「なんて、酷いお怪我を」
「いえ、これくらいなんてことないんですけど」
 駆け寄って体を支えようとする勇音の手を止めて、弓親が苦笑した。
「さすがに戦闘の邪魔になりそうだったので、血だけでも止めてもらえますか。血止めを部下にやっちゃってさ」
 そう軽くかるく言い放つ弓親の体は揺れている。勇音が制止する手を振り払うと弓親の体は大きく傾いだ。それを両腕で抱き留めて、勇音は弓親の、汗と血と泥で濡れた髪に顔を埋めるようにする。
「治療しますから、お願いですから任せてください。戦場があなたの場所なら、ここは私の場所です。戦いには私は口を挟みませんから、ここでは私の言うことを聞いてください」

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11月06日(火)
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