ID:104863
G*R
by K・カヲル
[120055hit]

■雲の向こうの遠雷が呟きさえも掻き消すから 5
 ギンがそう言うと、東仙は穏やかに首を振る。そして、藍染の後を追って姿を消した。その行方を眺めて大きく溜息をつき、ギンもまた瞬歩で屋根へと跳び上がる。屋根にいた白い小鳥がギンの影に反応する前に、次の屋根へと跳んだ。瞬間的に後ろに流れていく風景をおきざりにしてギンは走り、五番隊隊舎の屋根の上で音もなく立ち止まった。そしてゆっくと瓦の上を歩き、五番隊の中庭の一つ、二の庭に向かう。
 二の庭はよく手入れされた植物で埋め尽くされている。中央には芝生を植えた広い場所があり、そこには赤い敷物が広げられていた。その上に藍染と東仙があぐらをかいており、雛森が盆を持って傍に立っているのが見える。東仙が顔をこちらに向けた。ほぼ同時に藍染がギンを見上げて、手を振る。それにつられるように雛森もまたギンの方を振り向いて、困惑したような顔をした。
「市丸隊長ーっ、早く下りてらして下さいーっ。屋根が傷んで雨漏りしてしまいますよーぅ」
 片手を口元にあて、雛森が大声を出している。ギンはひらひらと片手を振って答えると、瞬歩で雛森の背後に立った。雛森が跳び上がって振り返る。
「堪忍なあ、雛森ちゃん。雨漏りしよったらちゃんと修理に来るよって、許してな」
 ギンが笑って謝ると、背中から藍染が茶化す声色で、
「ほう、市丸自ら修理に来てくれるなら、構わないよ。むしろ光栄だ。滅多に見られない勤勉な市丸を拝めるからね」
と言って笑った。東仙も小さく笑う。ギンは振り返って二人を見下ろし、苦笑いを浮かべる。
「えらい言われようですなあ。ボクかて少しは働きますわ」
「でも修理をするの吉良君だろう?」
 藍染が笑いながら言うと、ギンはへらりと笑った。
「そら、まあそうですやろな」
「もう、市丸隊長。吉良君をあまりいじめちゃだめですよ」
 雛森がお盆を胸の前で抱えるように持って、ギンを見上げている。ギンは雛森に顔だけ向けて、へらりと笑った。雛森はギンを急かすように敷物の上へ促す。
「合同訓練の計画書にお茶を零さないように気を付けてくださいね。藍染隊長?」
 雛森は絨毯の隅に置かれていた書類を示して三人を見渡した。藍染が苦笑して、
「この間、ちょっと大事な書類にお茶を零してしまったんだよ」
と言う。雛森はそこで破顔して、
「では、ごゆっくり。何かありましたらお呼び下さいね」
と一礼した。そしてくるりと背を向けて建物へ小走りで立ち去った。
 急にギンは梔子の甘い香りを感じた。周囲に眼をやると、庭の隅に白い大きな、どこか作り物のような花が細い木に幾つも咲いているのが見える。空気中に甘い、惑わすような香りが漂い、三人を覆っていた。
 他に人の気配はなく、ただ虫が花々を飛び回る羽音がかすかに空気を震わせている。

 藍染は低い声を更にひそめて話す。
「まず、先程の隊首会だけれどね」
 藍染は小さく冷笑した。
「浮竹もまあよくもここまで隠していたものだよ。朽木家のご令嬢だからまあ仕方ないとはいえ、行方不明だなんてことを」
 押さえきれない喜びを無理に押さえ込んでいるように、口の端が震えている。それをギンは冷めた眼で眺めていた。口元には普段の薄い笑みが浮かんでいるが、ギンの眼には何の感情もない。
「さっさと僕らに報せておけば……まあ、彼が探しても見つからないのだから、頭数を増やしたところで何も変わらないか。まあ、いい。朽木ルキアの行方不明にも絡むことで、君らへ報告しておくこともあるしね」
「……なんでしょうか」
 東仙が見えない眼を藍染に向ける。藍染がその眼を見返して、眼を細めた。
「まあ最初は、今回の件を考えてみよう。すでに君らも気づいているかもしれないね。東仙、君は、浮竹の報告を聞いてどう思ったかい?」
「そうですね……」
 思慮深い静かな声。
「まず、死神が行方知れずになることなど、意図的でない限りはありえないということですね。確かに、現世に駐在する場合にはよほどのことがない限りは尸魂界に連絡したりしないものでしょうが、だからといってこちらで彼らの霊圧を捕捉できないわけではない。それが長期に渡ってできない、ということは、その死神が既に消滅しているか、もしくは」

[5]続きを読む

07月12日(水)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ

[4]エンピツに戻る