ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■雲の向こうの遠雷が呟きさえも掻き消すから 4
「お堅いこと言わないの。美味しいんだもの」
乱菊は明るい笑い声を上げ、手酌で自分の猪口に酒を注ぐ。そして、ふっと真面目な眼で七緒を見た。
「で、どうしたの」
乱菊の声が一段低められ、灯籠の明かりに照らされた闇に溶けていく。七緒は軽く溜息をついて、酒を飲み干した。
ふう、ともう一度息を吐く。
「……十番隊も、空座町に隣接した地区を担当してましたよね」
「ええ。朽木の件ね」
「はい」
七緒に徳利を傾けてみせ、乱菊は差し出された猪口に酒を注ぐ。酒が妖しい光を反射させてぬらりと光った。
「京楽隊長は、浮竹隊長と親しくておいでなのでそのお話についてもよく話されているようです。……そろそろ、公にせざるを得ないようです」
「そっか……朽木は、また大変ね」
乱菊の言葉に、七緒は黙って頷いた。二人ともルキアと親しいわけではなかったが、酷い噂に対して良い感情を持ってもいなかったから、今回の件が知れ渡る前にルキアが見つかることを望んでいた。
「どうして行方不明になってるのか知らないけど、どんなワケであれ、浮竹隊長や、清音達は周囲からあの子を庇うでしょうね。……それで余計にやっかみを受けることになるんだけど」
「やっかむ人達は、単に誰かをやっかみたいだけですから」
七緒は冷静にそう言い、一口、酒を口に含む。
乱菊は苦笑して七緒を見つめた。七緒が眼を向けて、わずかに細める。
「誰も、朽木さんがどんな人でどんなことを思っているのか、考えもしないし興味も持たないでしょう? ただ、朽木家の一員で、朽木家の力で飛び級して入隊したとだけしか考えない。もちろん、私だって彼女と親しいわけではありませんが……」
「朽木が、別に朽木家で甘やかされているわけでもないことを知っているし、実力がないわけじゃないことも知ってるものね」
七緒の言葉を継いで、乱菊が苦く笑いながら言った。そして、二週間前の隊首会の日、日番谷が言ったことを思い出して、苦さだけを口元に残す。
あの、隊首会の後、日番谷は一言、
朽木が探せばすぐに見つかるだろう
と言った。それに乱菊は何も答えず、ただ笑っただけだった。思った通り、朽木家は独自にルキアを捜すことはしなかった。廊下で擦れ違う白哉は普段通りの姿で、その端正な横顔からは何の感情の揺れも見えなかった。
七緒もまた、正直に眉をひそめている。
「朽木隊長……全く、捜していらっしゃらないそうです」
「そうね。知ってるわ」
「詳細は知りませんが朽木さんは望まれて朽木家に入ったと聞いていますし、朽木さんが入隊するときに何があったか、少しだけですが京楽隊長から伺っています」
「……そうね」
七緒は、悔しそうに唇を軽く噛む。
「家族なのに、望んで家族になられたはずなのに、どうして捜さないのでしょう。確かに、死神以外は現世へ赴くことはできませんが、それこそ権力でそれなりの機関に依頼するなり、資金を出すなり、何かそんな素振りを見せるだけでも」
「そう、ね」
乱菊もまた、ルキアの入隊時に何があったのか知っていた。当時、隊では根回しがあったようだとだけしか聞かされていなかったが、京楽が酒の席で、浮竹から聞いたという話を聞かせてくれた。平の隊員に空きのあった十三番隊にルキアの入隊を頼む為に、白哉は極秘に浮竹を訪れたという。ここだけの話だよ、と京楽は少し寂しげに言ったことを乱菊はよく覚えている。ここだけの話なんだけどさ、でもホント、白哉君はどうしてああも不器用なんだろうね。京楽は優しい顔をして確かにそう呟いた。
「本当に、それくらい判りやすいことをしてくれればいいのにね」
独り言のように乱菊は言った。
「言葉にしないと、何も伝わらないのに」
それは乱菊がずっと思っていたことだった。乱菊は眼を伏せる。足下の石をちょいと蹴る爪先が見える。遠いとおい昔から、乱菊はそう思っていた。言葉にしないと何も伝わらないのに。けれど乱菊もまた、その言葉をギンに伝えることはできないままだった。
七緒が真面目な、どこか思いやるような柔らかい眼で乱菊を見ていた。その視線に気づいて、乱菊は七緒に顔を向けて小さく笑う。
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07月11日(火)
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