ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■雲の向こうの遠雷が呟きさえも掻き消すから x-2
四楓院家に勤めていた者が流魂街で、しかもこのような最果ての地で暮らしているはずはなかった。
仮に何かの罪を犯して流されたのだとしても、四楓院家に勤めていた者が握菱テッサイを見知らぬはずはなかった。浦原と夜一は身分の差はあれど幼馴染みだ。テッサイは浦原に、彼が幼い頃から仕えていたはずだった。あの夫婦があまりに身分が低いために彼らを見知ることがなかったと考えられなくもないが、それはあまりに可能性が低かった。夜一は身分の差で人を区別したりはしなかった。
更に。ギンは、夫婦から目を離さずに考え続けた。
老女の方が「姫様」と言った。「姫様もお許し下さる」だろうと。こんな地で姫と呼ばれるような立場の者と繋がりがあることは、普通はあり得なかったし、四楓院家にいた夫婦が「姫様」と呼ぶのはただ一人、四楓院夜一しかいなかった。
四楓院家に仕えていた者が流魂街の危険な地区にいること。
夜一と思われる、身分の高い人間に何か指示されているらしいこと。
おそらく顔見知りであるはずのテッサイと、互いにそんな素振りを見せなかったこと。
テッサイがわざわざ「移動しろ」と言ったこと。
ギンはテッサイがここに戻ってきてないと読んでいた。そんなあからさまな行動を彼がとるはずがなかった。だからこそテッサイは、あの場で「移動しろ」と告げたのだ。ここにテッサイがいないことが、ギンの考えを確かにしていた。
「……何やら、隠しとるうんやろうねえ」
再び溜息混じりに呟き、ギンは自分が眉間に皺を寄せていたことに気づいた。あえて笑ってみるが、それも苦笑としかいいようのない歪んだものだった。
茂みの向こうの夫婦は、黙々と真面目に荷造りをしていた。長年連れ添ってきた二人だということが傍目にもわかる動きで、一切の無駄なく二人は全ての乾燥果物をしまい終えた。そして二人、顔を見合わせて微笑んだ。
ギンはどこか痛みを感じて、拳を握りしめた。その痛みがどこか、羨望と、それが手に入らないことを知っている諦念、その両方を含んでいることをギンは知っていた。俯くと、ギンの眼には身にまとっている烏色の装束が映った。この装束に腕を通すと決めたときから、もうあの光景へと進む道からギンは、ギンと乱菊は外れたのだった。自分の進んでいる道の行方を知るのは、いつも引き返せない分かれ道を通り過ぎた後でしかない。夕闇に沈む目の前の光景を、ギンは顔を上げ、眼を細めて眺めていた。
夫婦は袋を手に取ると、辺りを見回し始めた。そして溜息をつくと、老女の方が、
「どこまで行ってしまわれたのでしょうねえ」
と呟いた。それに老人の方が頷いた。
「暗くなるまでには帰ってくるように、申し上げているのになあ」
「そうですよねえ」
二人は探しに行くかどうかを相談していた。もう一人、誰かいるのかとギンは更に身をひそめた。そのときに、遠くから無防備な霊圧が近づいてきたのをギンは感じた。それはまだ不安定だったが、明らかに夫婦よりも強い霊圧だった。
夫婦も感じ取ったのか、ギンとは反対側の茂みに目をやった。茂みが揺れた。
「じじさまー、ばばさまー。ただいまもどりましたっ」
茂みから快活な声とともに、幼女が飛び出してきた。体は小さく、細く、不釣り合いに大きな頭。髪は黒髪で闇に溶けるようだったが、肌は闇を拒むかのように白かった。大きな吊り目が夫婦を見上げ、笑みの形をとった。
幼女は腕の中に抱えた籠を夫婦に見せようと籠を前に突き出すようにして走り寄った。
「みてくださいっ。ほら、こんなにとれたんですよ」
「ほう、これは沢山採れましたなあ」
老人が屈んで籠を覗き込み、幼女に笑いかけた。老女もまた同様にした
「でも、ルキア。日が暮れるまえに戻るよう、婆はいつも申しておりますよね」
老女が優しげな声で窘めると、ルキアと呼ばれた幼女は小さな身体を更に小さくして項垂れた。
「すみませぬ……ほんとにたくさんころがっていたので、つい」
「まあまあ、無事に戻ってきたのですから、もう良いですぞ。もう、ほろ……いえ、あの妙な鳴き声の獣も退治されたようですしなあ」
老人が慰めるように少女の頭を撫でた。老女も、
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07月09日(日)
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