ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■雲の向こうの遠雷が呟きさえも掻き消すから x-1
実際に、息切れするまで瞬歩を使い続けて移動しても戌吊に着くのに三日かかった。死覇装から少し擦り切れた着物に袖を通したギンは、戌吊をゆっくりと見渡した。ギンが幼い頃に暮らしていた場所とは違い、戌吊は緑が多く、色彩が豊かだった。森が広く大地を覆い、川がその間を流れている。森が開けた場所には民家が立ち並ぶのが見えた。地区番号が大きいだけあって、擦れ違う大人の目は暗く澱んでいるものが多かったが、少なくとも自分が暮らしていた場所よりは悲壮感がないとギンは思った。
「食べ物はそこそこありそうやねえ。南にあるからやろか」
丘をゆっくりと降りながら、ギンは空を見上げた。青い空を鳶が悠々と飛んでいる。その影がギンの上をかすめた。
「虚退治、面倒やなあ。このまま一眠りしたいわあ」
小さく呟いてギンは森へ足を踏み入れた。虚出現の地点はこの森の中にあるはずだったが、しばらく歩いても空間の歪みは感じられず、ギンは焦れた。森の中は薄暗いが、ところどころ葉の厚い重なりの隙間から光が射し込んでいた。そこは奇跡のように明るく、光に照らされた地面には陽性の植物が花開いていた。その前に蹲り、膝を抱えてギンはそれを眺めた。
「……面倒やなあ」
ギンは大きく溜息をついた。
そのときだった。
いきなり遙か前方で空間が歪む音がした。同時に、虚ではない、死神の霊圧が弾けた。反射的にギンは顔を上げ、瞬歩で走り出した。走りながら刀を抜き、霊圧で煙ったようになっている空間に飛び込んだ。
猿を巨大にしたような姿をした虚を、男が拳で殴り倒すのがギンの眼に映った。虚はまだ空間の裂け目から体を半分ほど出したところで、男に殴られた反動でずるりと裂け目から地面に落ちた。男が脚を引き、同じ側の腕を引いて再び殴る体勢になった瞬間に、ギンは間に飛び込んで地面でまだ転がったままの虚に刀を突き立てた。ギンの重みと勢いで刀は柄まで虚にめり込んだ。
声ともつかない嫌な音が虚の口のような穴から漏れた。
同時に、
「おや、市丸殿」
と背後で男が言った。状況に似つかわしくない、呑気な声だった。
ギンの体の下で虚が空気に溶けるように消えた。煙のように形を崩し、ギンの手から感触が消えた。ギンは立ち上がり、刀を鞘に収めて振り返った。
浦原喜助の部下、握菱テッサイがそこにいた。
「握菱さんやないの。どないしはったん」
「いやいや、虚が出現したので殴っていたのですがね」
「そら見て判りますわ」
ギンが笑うと、テッサイもまた笑い、地面に落ちている籠を取り上げた。覗き込むと、テッサイはよく見えるようにギンに差し出して見せた。籠の中は植物の実や葉で満杯になっていた。
「いえ、植物採集に来ていたのでございますよ。ご覧になりますか。こちらが」
「いや、ええですわ。珍しい草やいうのは見て判るさかい。いつも大変ですなあ、あっちゃこっちゃによう出かけて」
植物の説明を始めようとするテッサイを手で止めて、ギンはテッサイを労った。テッサイは技術局に所属しているわけではなかったが、浦原喜助の忠実な部下であるからか、よく動植物の採集に出ていた。浦原から崩玉を壊したと告げられた藍染は、最初、テッサイの行く先々に崩玉が隠してあると疑っていたから、掴趾追雀で行方を追ったことも多くあった。しかし、結局何も得られず、このころの藍染の疑いの矛先は浦原や夜一の縁者へと向けられていた。
テッサイは表情の読めない顔でギンを眺めていた。そして、
「市丸殿はどうなされたのですか。虚退治の持ち回りは、今は五番隊でしたでしょうか」
と首を傾げた。ギンは苦笑してみせた。
「六番隊さんの代理なんですわ。ボクがよう仕事しぃひんさかい、藍染隊長に追い出されてん」
「それはそれは、ご苦労ですな」
「ですやろ。ここに握菱さんがいらはるなら、ボク来ることあらへんかったなあ」
「私はここ数日ずっと各地を点々としておりましたから、虚の出現情報を知りませんでした。申し訳ない」
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07月08日(土)
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