ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■雲の向こうの遠雷が呟きさえも掻き消すから 2
「それは違う。僕は単に美しいものが好きなだけさ。苛烈で、その力を爆ぜることしかできない、壊れゆくそのぎりぎりのところで輝くものに惹かれるのさ。阿散井にだって興味がないってことはないよ。ただ、彼が力を求める理由は、強さだけじゃないからね。彼はややこしいよ」
弓親の横顔は静かで、その眼は確かなものを捉えているように乱菊には感じられる。死神としての経験は乱菊の方が豊富で、生きてきた時間も乱菊の方が長いようだったが、迷いは弓親より自分の方があるだろうと乱菊は思っていた。
「……あんたの求める美ってのは、そのうち壊れてしまうかもしれないわよ」
乱菊はわずかに眼を伏せて呟きのように囁いた。
「それは当然。壊れないものなどどこにもないよ。覚悟のうちさ。僕はそれを見届ける」
弓親の声は笑みすら含んでいた。乱菊は一度眼を閉じて、ゆっくりと開けた。足下の自分の影の上を何かの甲虫が這っていた。
「あんたは本当に十一番隊が似合っているわ」
弓親も眼を閉じて深く笑う。
「僕もそう思うよ。だから、阿散井も君も、更木隊から出ていってよかったとも思う……鉄さんはちょっと違うかな。あの人の気性はまさに更木隊なんだけど、ああ、でも、ちょっと優しすぎるか」
そう言って弓親は乱菊を振り向いた。普段の皮肉めいた笑みではなく、わずかに柔らかい笑みを向けられて、乱菊は少し戸惑い、そして笑う。
「そうね。そう思うわ」
「君の飲みっぷりは素晴らしいんだけどね……最初に幻滅したくらいに」
「失礼ね。明るいお酒が美味しいのよ」
乱菊は唇を尖らせてふて腐れると、弓親と顔を見合わせてふふと顔を崩す。弓親は再び皮肉な笑みになり、
「君は遠くから眺めていれば美しい人なんだけどねえ」
と言った。そして湯飲みを骨張った細い手で持ち、微かな音を立てて茶を飲む。乱菊も気づいたように湯飲みを手に取り、茶をすすった。口の中が潤うのがわかる。乱菊は湯飲みを持ったまま前を見た。名も知らない人々が急いで、またはゆったりと通り過ぎていく。
「……恋次と、朽木隊長の妹さんは幼馴染みなんだそうよ」
ぽつりと乱菊は呟いた。
「……ふぅん」
興味ないというように弓親が答える。乱菊は通りから視線を動かさず、もう一口だけ茶を飲んで、湯飲みを盆の上に置く。
「妹さんは養女のはずだから、その過程でなんか色々あったのかもね。幼馴染みで一緒に死神になったっていう人は多いけど、恋次と朽木は喋っているところも親しげにしているところも見たことなかったから、あたしは知らなかったわ」
「阿散井はあれで、そんなにぺらぺら喋らないからね。懐いている一角や、あとは一緒にいた同期くらいしか知らなかったんじゃないの…………ま、幼馴染みだから親しいってこともないとは思うけど」
弓親が淡々とした口調で話し出す。
「それでも、流魂街出身の幼馴染みはここにきてもずっと親しい奴が多いみたいだね。あんな荒んだ場所を一緒に生き抜いてくればそうもなるかな。お互いの綺麗な部分も汚い部分も全部目の当たりにして、親しい、なんて一言じゃ括れないようになってるんだろうけどさ」
「そうね」
乱菊は通りから目を離さずに、しかし眼はただ遠くの過去を捜すように彷徨わせて頷いた。通り過ぎる影の向こうに、幼い頃のギンの姿が見えるような気がして乱菊は眼を細める。綺麗な部分も、汚い部分も全て。もう遠くなった自分の誓いを思い出し、乱菊は胸の奥が痛むのを感じる。
隣の乱菊の気配にちらりと眼をやり、弓親は前に視線を戻した。
「腐れ縁……ってことかな。僕と一角も、突き詰めれば単にそんな気がする」
「あんたと一角も幼馴染みなんだっけ」
乱菊は横目で弓親を見た。その眼を見て弓親は小さく頷く。
「まあ、小さな頃から一緒ってわけでもないけどね。僕が流魂街に落とされたのは結構大きくなってからだし」
「そっか」
「……松本には?」
小さく笑う乱菊を見て、弓親は囁くように言う。乱菊は眼を伏せたまま、笑みを崩さない。弓親はもう一度、囁く。
「松本も流魂街出身じゃない。君には、そういう腐れ縁はいないのかい?」
「いないわよ」
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07月06日(木)
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