ID:104863
G*R
by K・カヲル
[120055hit]
■地上の縁からのぞき込むと深遠の青が底もなく 11
「一緒に斬られて良かった。一緒にここに来られたもの。私は弟とずっと一緒にいたの。ここに来てもあの子は体の弱かったけど、あの弟だけが私の全てだった」
「……弟さんは?」
「もう死んだわ。ここに来る前に」
俯いたままひっそりと微笑むリンドウを見て、乱菊はただ頷いた。部屋に沈黙が流れると、遠い階下の笑い声がかすかに聞こえた。
「弟はね、弱かったけど霊力はあって、だから余計に大変だった。食べ物を手に入れないとすぐに寝込んでしまったし、霊力は弱いから身を守ることもできないし。でも、私を支えていたのは弟だったの。ほら、髪が長いと掴まれたりして危ないじゃない? でも姉様は長い方がいいって、危なくないように弟が毎日結ってくれたわ。やっと生えてきた爪が歪んでいて私が泣いていると、弟は花びらを摘んできて、その絞り汁で染めてくれた。こうすると姉様はすごくきれいだって、花のようだって、毎日」
膝の上で爪を指の腹で撫でながら、呟くようにリンドウが話す。その眼は静かで、その口調は静かで、ただ愛おしむようにリンドウは爪を撫でた。乱菊は何も言わずにその爪を眺めていた。
初めて親しくなった日のことを乱菊は思い出していた。あの日、リンドウは、仲間のことを話すツワブキを眩しいものを見るように眼を細めて見ていた。
「本当は弟とここに来たかった。あの子が旅に耐えられるようになったら、ここに来るつもりだったの。でも、その前に風邪を引いてあっという間に死んじゃった。だから私にはもう何もないの……うん、でもいいの。弟が辛かったことも忘れて生まれ変わってるなら、それで。…………ただ」
リンドウの気配に乱菊は顔を上げた。リンドウは真っ直ぐに乱菊の眼を見つめていた。
「どこかがどうしても寂しいの。私の中にぽっかりと穴があるの。私、市丸君なら同じような空洞を持ってるんじゃないかなってふいに感じて、そう感じてから、少しずつ惹かれていったわ。私はもしかしたら、恋ではなくて寂しさに落ちたのかもしれない。でも、恋い慕う心って、そういう、何かが欠落しているから生じるものだと思うし、市丸君に惹かれたことは本当のことだと思う。……それを全部、市丸君に話したわ」
リンドウが消えそうに微笑んでいる。乱菊は笑みを無理に浮かべた。
「それで、ギンは」
「誰にでも空洞はあるし、ボクのソレは君のとは違うって。いつもの市丸君とは違う顔で笑ったわ。ちゃんと、笑ってくれた。それを見て、ああ私じゃダメなんだなって思って」
「……そっか」
乱菊は眼を伏せた。自分が安堵したわけでもなく、驚いているのでもなく、ただその話を受けとめていることを乱菊は理解していた。ただ、リンドウに何も話せないでいる自分に嫌悪感がよぎり、それを飲み込んで乱菊は苦く笑う。
リンドウは少し黙り込み、そして振り切るように無理をした笑みを乱菊に向けた。
「でもいいの。市丸君、私のことはちゃんとふってくれたから。他の女の子達と違って、ちゃんと。市丸君、言ったもの。私のことは適当にはしたくないから、きちんと断るって。だから、それで十分かなって思って」
「うん……そっか」
乱菊はリンドウの笑顔が眩しくて眼を細めた。リンドウは涙も浮かべず、ただ微笑んでいる。
「強いね」
独り言のように、乱菊は呟いた。
「そんなことないよ。やっぱり泣いたもん」
「ううん。でも強いよ。あたしだったら笑って話せるのかなって思う」
乱菊の言葉に、リンドウは少し顔を歪ませた。
「……ううん、私、少し嫌な奴だから、乱ちゃんには話しておきたかったの」
「どういうこと?」
「乱ちゃんと市丸君、仲が悪そうに見えるけど、でも本当は仲がいいんじゃないかって、ずっと感じていたのよ。なんとなく」
乱菊は黙り込んだ。リンドウは俯いていて、だから表情が見えなかった。
「乱ちゃんがどんな反応をするんだろうって、少し気になってたところもあって、だから話したの。でも、乱ちゃんはただ話を聞いてくれた。ごめんね。なんか、ちょっと試すようなことして」
人を狂わすのが色恋なんやろ。
いつかのギンの言葉が乱菊の中に暗く響いた。
[5]続きを読む
06月14日(水)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ
[4]エンピツに戻る