ID:104863
G*R
by K・カヲル
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■地上の縁からのぞき込むと深遠の青が底もなく 6
 乱菊は跳び上がってそれを避け、空中で宙返りをする。その体勢のまま、口の中で言霊を呟くと、右手に左手を添えて鬼道を撃ち出した。それが虚の左目付近に当たり、激しい音と共に爆発するのを、撃ち出した反動でもう一度宙返りしながら逆さまで乱菊は確認する。虚が一瞬動きを止め、その間に乱菊は地面に降りると脚の間をすり抜けてリンドウ達の傍へと走った。
「乱」
 ツワブキが涙目になって、それでもスミレとリンドウを虚から流れ出る圧力から庇うように先頭に立っている。二人はツワブキの影に隠れて言霊を唱えていたが、ふいに両脇から姿を現して虚に向かって鬼道を撃った。それは乱菊の上を跳び、背で爆発する。
 乱菊は三人から五間ほど離れた場所で踵を返し、虚と向かい合って抜刀した。
「みんな、攻撃を適当に避けて、四方に散って」
 虚から目を離すことなく、乱菊は叫ぶ。
「村に行かせるわけにはいかないし、かといって殺されるつもりもない。先輩達を呼びに行ってもらってるから、助けが必ず来るから、それまで、頑張ってここで持ちこたえよう」
「わかった」
 三人が大きな声で答える。乱菊は息を吸い、そして吐いた。
「散って!」
 全員が一斉に四方に跳んで、伸びてきた虚の爪を避けた。そしてそのまま虚を中心にするように距離を開けて、虚へ振り返る。乱菊は霊圧を全解放した。虚は霊圧の高い方に向かってくる。
「……こっちへ、来い」
 乱菊は小さく呟いた。それが聞こえたかのように、虚は不気味なほどにゆっくりと乱菊へ体を向ける。乱菊の首筋を汗が流れた。刀の柄を関節が白くなるほど強く握りしめ、乱菊は虚と対峙する。
 その手が伸ばされようとした瞬間、右手のリンドウから鬼道の炎が撃ち出された。それが虚の左側面に当たり、虚はそちらを振り向く。その途端に今度は左手にいるツワブキから炎が撃ち出され、今度は虚が体ごとツワブキの方を向いた。
 間を置かず、虚を挟んで向かい側のスミレから鬼道が発せられた。激しい爆発音とともに、虚がスミレの方を向く。
 乱菊が虚の視界から外れた。
 三人の攻撃の間、ずっと言霊を呟いてた乱菊は、左手を伸ばすと、その先に霊力の巨大な塊を作り出す。そして、引いた右足を踏ん張ると、呼び声とともに撃ち出した。
 巨大な炎の塊が勢いよく虚の首元に命中してその部分を刮げ取った。虚は一瞬、体を傾げる。それが見えた次の瞬間。
 虚の左手が高速で乱菊に伸びてきた。
 避ける間もなく、咄嗟に乱菊は刀でそれを受けとめる。体が一間ほど押し込まれ、地面を足の裏が抉ってめり込んだ。乱菊の肩が軋んだ音を立てる。それを自覚するより前に、乱菊の眼には繰り出されて向かってくる虚の右手が映った。
「乱ちゃん!」
 リンドウの叫ぶ声が聞こえた。爆発の音も連続して起きたが、虚は動きを止めない。血の気がすうっと引く音を乱菊は聞いた。
 そのとき、目の前を何かが過ぎった。
 と同時に虚の右手が二の腕付近でずるりとずれて、そこから先が空気に溶けるように消える。そして固い音が響き、乱菊がどうにか抑えていた左手の爪が乱暴に刀から外された。乱菊の前に影が庇うように立ちはだかる。銀髪が揺れた。
「怪我してへんか、乱菊」
 ギンが、他の誰にも聞こえない、小さな小さな声で囁いた。
 目の前で荒い息をしている背中を見て、乱菊はギンが全力で走ってきたことを知った。うなじには汗が浮き、銀髪が貼り付いている。
「大丈夫。怪我は、ないわ」
「なら、ええ……よかったわ、ほんまに」
 振り向きもせずにそう呟くと、ギンは、他より短い彼の斬魄刀を引いて構える。ギンの霊圧が跳ね上がった。
「射殺せ」
 低い声で囁くようにギンが刀を呼ぶ。
「神鎗」
 音もなく伸びる刀が虚の右脇腹を貫いた。伸びた刀はそのまま斜めに振り上げられて、虚の体を切り裂く。虚は残っていた左手をギンに伸ばそうとするが、その前に跳躍していたギンが頭から縦に刀を振り下ろすと、その体は二つに裂けた。
 そのまま、虚は溶けるように消えた。


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06月08日(木)
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