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G*R
by K・カヲル
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■ぼくらはただそうやって世界を手にした 12
それでも、その絶望を手に入れないことには、自分はぐずぐずと死ぬこともできないことをギンは自覚していた。急に脚の痛みが感じられたが、それでもギンは歩いた。ただ、乱菊の霊圧を探ることは怖くてできなかった。少しでも先延ばしにしようとする自分に気づいておかしくなったが、笑みも浮かばなかった。
そして明るくなる空の下、戸の木目まで見えるようになったときに。
地区の境界線となっている東の山脈の輪郭から太陽の光が射し込んできて。
乱暴な音をたてて戸が開いて、乱菊が飛び出してきた。
山吹色の髪に朝日がきらきらと光り、その光を浴びて爆発したかのように色彩が溢れ出す。全てがギンと親しくなり、やさしくなり、その中心に乱菊がいた。
乱菊がギンに向かって走ってくる。その表情は泣いているのか怒っているのか喜んでいるのか、よくわからない。ただ無言で走ってくる。ギンはいきなり激しく鮮やかに近くなった世界に呆然としていた。ものすごい何かで頭からつま先まで一気に殴られたようだった。
そして乱菊にいきなり殴られた。
「バカじゃないのあんた!」
乱菊は拳を握りしめて叫んでいる。
「なんてバカなの! ホントにあんたって子は!」
髪の毛はぼさぼさになっているし、眠っていないのか目の下には隈ができている。涙は惜しげもなく零れているし、頬は怒りのあまり上気して紅色に染まっている。
……きれいやなあ。ギンは衝撃にくらくらしながらそう思った。なんてきれいなんだろう。戻ってきてしまった自分の浅ましさと罪深さと、それでも乱菊のいたことに対する歓喜と感謝で、ギンはこのまま自分が破裂してしまうのではないかと思った。それもいいかもしれない。その方がいいのかもしれない。どこかに神様がいるのなら、今ここで自分を破裂させた方がいいのに。やっぱり神様はいないんやろか。ギンは少し笑った。
「何がおかしいのあんたは!」
乱菊が両手でギンの頬をつねり、そのまま両側にぐいぐいと引っ張り回す。その指の感触にギンは溶けてしまいそうだった。
「痛。痛いて、乱菊」
「あんたはこれくらいしないとわからないのよっていうか、こんだけしてもバカが治らないでしょう!」
「西の育ちにそんなバカバカ言わんといてえな」
「あたしは東出身なのよ文句あるの!?」
乱菊はそこで盛大に溜息をつくと、摘んでいた指を離して、両掌でギンの顔を包み込んだ。
「おかえりなさい、ギン」
乱菊はじっと見開かれたギンの紅い目を覗き込んだ。伝わるのか。受けとめられるのか。もうそれはギンに任せるしかないけれど、あらん限りの感情を込めて、乱菊は言った。
ギンの手がそっとそっと、壊れ物を扱うかのような繊細さで乱菊の両手首を掴んだ。ギンが目を瞑る。しばらく何かに耐えているかのように口を引き結んでいたが、やがて震える声でギンは言った。
「ただいま、乱菊」
乱菊が両腕をのばし、ギンの頭を抱え込んだ。ギンは一瞬だけ躊躇して、すぐに腕を乱菊の背中に回す。お互いの体温が溶け合って同じになるまで、二人は動かなかった。
二人とも、これから先、このようなことが何度も繰り返されるだろうと思っていた。それはとても確かなことだったけれど、少なくとも今は考えなくてもいいことだと、考えたくもないことだと思っていた。一緒に生きていく、そのことだけをお互いに無言で確認していた。
出会ってもうすぐ一年が経とうとしていた。
--終--
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02月08日(火)
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