ID:104863
G*R
by K・カヲル
[120055hit]
■ぼくらはただそうやって世界を手にした 1
物陰に隠れながら、森の中で少ない食料を探して空腹を満たしていた。幸いにも乱菊には得体の知れない力があったから、それを利用して、食べ物を集めて生きていた。それでも常に空腹で、体は痩せ細っていた。
「ここにいる人々は、みんな共同体を作って集団で暮らしているのが多いよ」
ある日、森の中で出会った男女二人組はそう言って、乱菊を自分の暮らす集落に連れて行った。これまで出会った怖い人達はみな男だったから、女がいることで乱菊は安心した。道々、彼女らと話をすることで、乱菊は腹が空く自分は周囲の人と異なること、何も食べないと死ぬだろうことを知った。何か得体の知れない力のあることは自然と知っていたが、多くの腹の空かない人々には力がないことは初めて知った。そして自分が落とされた地区はひどく荒んだ人々が多いことも理解した。女はこの世界に詳しく、ここに来てから初めてまともに人と喋った乱菊は嬉しさのあまり、常に働いていた疑り深さを引っ込めた。
その女が連れてきたそこは小さな花街だった。
「ここは強い奴らに守られているから、安全に生きていけるンだよ」
女はそう言って乱菊を町中のある屋敷に連れてきた。こんな大きな建物を見るのは初めてで、乱菊は最初はきょろきょろしていたが、その屋敷の部屋にいる男達の眼がいつかの男のようにぎらぎらしているのを見て、乱菊は怯えた。
「かわいい娘を連れてきたじゃねえか」
「まだガキだな」
「でもこういうのがまたいいんじゃんかよ」
「お前、ガキがいいのかよ」
廊下を歩いていると部屋の中にいる男達から口々に何か言われる。その中から手が伸びてきて乱菊の腕を掴んだとき、乱菊は小さく悲鳴を上げた。
「お止し。この娘はまだ売り物じゃないんだよ」
「味見くらいいいじゃねえか。俺が値段を決めてやるよ」
制止した女を一瞥しただけで、その男は気にしない様子で乱菊を引っ張りあげて腕の中に抱え込んだ。その熱さと粘りつく気配にぞっとして、乱菊は言葉も出せずに暴れた。乱菊のその様子に男は笑い、周囲の男達も笑った。このとき乱菊は、強い者は弱い者が感情を露わにして逃げようとすることすら娯楽にすることを知った。
「お止しったら。いい加減にしな」
女が強い口調で言い放ち、乱菊を腕の中に奪い返した。そしてそのまま文句を言う男達を無視して屋敷の奥の部屋へ向かう。抱えられた乱菊は震えていた。そんな乱菊に、女は部屋にあった果物を差し出したが、乱菊は首を振った。
「お姉さん。あたし、帰る」
「……ここは安全だよ。食べ物もちゃんと手に入るンだよ。そんなに痩せなくても、一人でいなくてもいいんだよ」
「自分で食べ物は集められるから、帰る。だって、怖いよ、ここの人達」
「……そうだね。まだあンたはおチビだもんね。さっきは怖いめに遭わせてごめんよ。……でも覚えておきな。人間はこうやってでも生きていくんだよ。奪われ続けても、それでも」
宵闇に紛れて女は街のはずれまで乱菊を連れて行き、持ち出したわずかばかりの果物を乱菊に渡すとそこから乱菊を逃がした。一緒にいた男が文句を言っていたけれど、女の方が強いのか、説き伏せられていた。乱菊は言葉少なにお礼を言って、一目散に走っていった。何が哀しいのか分からないが、なんだか哀しかった。乱菊の大きな目から涙がこぼれ落ちていたけれど、それに構わず乱菊は走っていった。あの女はイイヒトだった。痩せ細った自分をかわいそうに思ってあの街に連れてきたんだ。生きていくことが最優先だから、乱菊を生かすために連れて行ったんだ。あの女はイイヒトだった。そう思うこと、それだけが乱菊にとって救いだった。
一人で生きていこう。隠れて隠れて、一人で生きていこう。乱菊は安全な森に着くまで足を止めずに走っていた。
前 ◄ 目次 ► 次
01月03日(月)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ
[4]エンピツに戻る