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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「市子」

体調不良で見逃してしまったこの作品、早くもアマプラで公開中とのことで、早速観ました。苛烈な人生を送る市子を観て、私が一番感じたのは、怒りと無念です。戸田彬弘。今回ネタバレです。
長谷川義則(若葉竜也)と川辺市子(杉咲花)が同棲を始めて三年。正式に義則よりプロポーズを受けて、涙を流して喜ぶ市子。しかし次の日、彼女は義則の前から姿を消します。後日義則を訪れた刑事の後藤(宇野祥平)から、川辺市子という女性は、存在しないと告げられます。自分の愛した市子とは、誰なのか?義則は市子の人生を追いかけて行きます。
無戸籍の話は、ドキュメントやネット・新聞など、目に付くと観たり読んだり必ずするので、ある程度の知識はあります。なので、市子の事情もすぐ吞み込めました。作中、市子が救われる道は何度もありました。まずここが最初。今でこそDVシェルターが各地方にあり、警察も夫の暴力の通報で出動してくれますが、当時は難しかったはずです。
では、借金で別れた二度目の夫の時は?重度障害の妹月子は、出生届が出ています。ということは、市子の実父とは別れていたはず。この時、母なつみ(中村ゆり)には、出頭して欲しかった。多くの無戸籍者は、夫から逃れていた時に、別の男性との子を出産。夫と婚姻中のため、出生届が出せなかったケースが多いようです。罪と言っても罰金刑で済み、留置所にも刑務所にも入りません。障害児を産んで、それどころではなかったのか?
後々なつみと同棲する小泉(渡辺大地)は、元役所のケースワーカー。月子の件で知り合ったのか?彼なら色々なつみに知恵を貸せる立場では?その時既に市子と月子は入れ替わっていたかもですが、それでも情状酌量のあるケースです。利用者と担当者が男女の関係になるのは、ご法度です。そこを優先したのでしょう。親として社会人として、情けなさ過ぎる。
市子と月子は入れ替わってしまったので、医療も福祉も受けられなかったでしょう。自分が苦心惨憺して医療機器を用意してやったとの、小泉のセリフもありました。手続きを踏まないと、それは膨大なお金が必要です。月子の場合なら、身体障碍で手帳が下りるケースなのに、介護保険も使えない。なので、ヘルパーも頼めない。なつみは夜職で働き、市子はヤングケアラー。「もう限界やった」は、疲れ果てたなつみの姿、夏のクーラーも無い様子の部屋で、滴り落ちる市子の汗の姿が、雄弁に語っていました。
月子が亡くなったのを観たなつみが、「ありがとう」と市子に言います。私はなつみがやらせたのかと思いました。無戸籍で透明人間の市子。母親のせいでそうなっているのに、娘を軽んじているのだと思いました。もうこの辺りで、私のなつみへの嫌悪感が爆発。殺したいならお前がやれ!と、痛烈に思いました。
上記何度も何度も、出頭すればお仕舞の話が、後述なつみが、「もう少しもう少しと思っているうち、どうにもならなくなった」。これは正直な気持ちでしょう。でも私は思う。「女」であるうちは、バカでもか弱くてもいいのよ。可愛いだけでも構わない。しかし「母」となったら、賢くて強くなければならない。子育てに正解はないけれど、正義はあります。それは、ひたすら子供の幸せを願う事です。親から巣立つとき、自分で人生を切り開ける子になっているか?だと私は思っています。なので「幸せな時もあった」のセリフは、市子ではなく、この愚かな母の幸せだと思います。
この時点で市子が出頭していれば、まだ未成年。市子の境遇に対して大いに情状酌量はあるはずで、なつみとは離れて、児相預かりになった案件だと思います。そうすれば、その後の小泉の事件も無かったはず。
月子と入れ替わった市子は、同級生より三歳年上。子供の頃はそれなりに明るかった彼女が、段々大人しく声も小さく憂いのある風情になっていくのは、自分の境遇を理解していったからです。大人が本来の彼女を変えてしまった。
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03月20日(水)
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